やりたい曲があるのは、大事なことです
この曲が弾きたい。
そういう気持ちは、
音楽を続けていくうえで
いちばん大きな力になります。
ですので、
やってみたい曲があれば
ぜひ聞かせてください。
そのうえで、
少し遠回りに見える道を
ご提案することがあります。
その理由を、
書いておきたいと思います。
音数が多いと、指のことで精一杯になります
音の多い曲を弾こうとすると、
次にどの指をどこへ動かすか、
そればかりを考えることになります。
これは、
慣れているかどうかの話ではありません。
人が一度に考えられることには
限りがあるからです。
誰でも、そうなります。
指のことで頭がいっぱいになると、
音色にも、
リズムの揺れにも、
気を配る余裕が残りません。
音は並びます。
ただ、
そこから先へ進む入り口が
見えにくくなってしまいます。
難しい曲をお渡ししたまま、
その場所に置いてしまうのは、
こちらの側の問題です。
スタンダードを選ぶのは、余白が多いからです
ジャズのスタンダード曲は、
メロディーもコードも
込み入っていません。
だからこそ、選んでいます。
指が空くと、
そのぶんを別のことに使えます。
この一音を、どんな音色で出すか。
どこで、少し遅らせるか。
ここに、何を込めるか。
絵にたとえるなら、
スタンダードは
描き込まれた完成品ではなく、
まだ白いキャンバスです。
何を描くかは、
ご自身が決められます。
簡単な曲をお渡ししているのでは
ありません。
自由に使える余白の広い曲を、
お渡ししています。
あなたの弾き方は、あなたのものです
講師の演奏を
そのままなぞる練習の仕方があります。
形にはなりますが、
そこが行き止まりに
なってしまうこともあります。
私の弾き方は、
私が長い時間をかけて
たどり着いたものです。
別の方には、
別のたどり着き方があります。
そちらのほうが、
ずっと面白いものになります。
ですので、
お渡ししているのは
コードやリズムの仕組みです。
その先をどう使われるかは、
音を出してから考えていけるものです。
お茶やお花の作法と、同じ考え方です
茶道や華道には、
細かな作法があります。
窮屈なもののように
見えるかもしれません。
ただ、
型が身体に入ってしまえば、
そこに気を取られなくなります。
手が勝手に動くようになって、
初めて、
その人らしさが出てきます。
音楽も同じです。
コードの仕組みも、
リズムの取り方も、
縛るためのものではありません。
身につけてしまえば、
考えなくてよくなる。
そこから、自由が始まります。
ベースとドラムが入ると、会話になります
セッションの日には、
ベースにプロの方が入り、
私がドラムを叩きます。
そこに、
ピアノとして加わっていただきます。
一人で弾いているときとは、
まったく違うことが起きます。
こちらがテンポを揺らせば、
それが伝わります。
向こうが待てば、
こちらも待つことになります。
覚えた通りに弾くだけでは、
この時間は成り立ちません。
その場で聴いて、
その場で決める。
音で会話をしている状態です。
ここまで来ると、
もう楽譜から離れています。
ご自身で音楽を組み立てる側に
回っておられます。
その道を、一緒に歩かせてください
遠回りに見える道は、
一人で歩くと不安なものです。
今やっていることが
どこにつながるのか、
途中では見えないからです。
「今は、ここをやっておきましょう」
「この曲は、もう少し先で楽しめます」
そう言ってくれる人がそばにいるだけで、
その道はずいぶん歩きやすくなります。
もちろん、
やってみたい曲があれば
持ってきてください。
そこから始めることも
よくあります。
どんな曲をやりたいか、
まだ言葉にならなくても構いません。
一度、お話を聞かせてください。
Music Space サヴァサヴァ
野口 尚宏

