ピアノを弾く人こそ歌おう|声に出す意味

暖かな光の部屋で、男性がピアノを弾きながら声に出して歌う水彩アニメ風イラスト。手から立ちのぼる輪郭のはっきりした光と、口から流れる息を感じさせる柔らかな光が空中で編み合わさり、下部中央に「歌えるフレーズは、弾ける。」の白いテキスト。

「歌ってみましょうか」と言うと、固まる方がいます

ピアノのレッスンの中で、
ときどきこうお願いすることがあります。

「今のフレーズ、
声に出して歌ってみましょうか」

すると、多くの方が固まります。

「いや、歌は無理です」
「音痴なので」
「ピアノを習いに来たので」

その気持ちは、よくわかります。

でも、この抵抗を
ほんの少し越えたところに、
演奏を変えるものが
待っています。

声は、ごまかせません

頭の中で歌うのと、
実際に声に出すのとでは、
起きることがまるで違います。

頭の中の歌は、
いくらでもごまかせます。

あいまいなところは
あいまいなまま流れていき、
本人は歌えたつもりになれます。

でも、声に出した瞬間、
それができなくなります。

音が取れない箇所が出てくる。
途中で息が続かなくなる。
どこで区切っていいか
わからなくなる。

それは、失敗ではありません。

あなたがそのフレーズを
まだ本当には
つかめていない、という
正確な報告です。

歌えないフレーズは、指が覚えているだけ

ここに、大切な区別があります。

弾けることと、
わかっていることは、
同じではありません。

何度も練習したフレーズは、
指が道順を覚えます。

頭で理解していなくても、
手が勝手に動いてくれる。

とても便利な能力ですが、
落とし穴もあります。

指が覚えているだけの音楽は、
少し条件が変わると
崩れてしまいます。

キーを変えたら弾けない。
途中から始められない。
アレンジすると迷子になる。

歌えるかどうかは、
その音楽が指ではなく
自分の中に入っているかを
確かめる方法なのです。

息が、フレーズの長さを教えてくれる

もう一つ、声に出すからこそ
わかることがあります。

息の限界です。

ピアノは、息を使いません。

だから、どこまでも
音を続けられてしまいます。

その結果、
切れ目のない、
のっぺりとしたフレーズに
なりがちです。

でも、実際に歌ってみると、
どうしても息継ぎが必要になります。

そして、その息継ぎの場所が、
そのまま
音楽の自然な区切りです。

体が教えてくれた区切りを
そのまま鍵盤に持ち込むと、
演奏に呼吸が生まれます。

伴奏するとき、歌い手の景色が見える

そして、これがおそらく
一番大きな変化です。

自分で歌った経験があると、
伴奏がまったく変わります。

歌ったことのない人の伴奏は、
しばしば歌い手に
無理を強います。

息継ぎの余地がない。
入るきっかけが見えない。
声が出しにくい音域で
強く弾いてしまう。

本人に悪気はありません。
ただ、歌う側の事情を
知らないだけなのです。

一度でも自分で歌ってみると、
「ここは苦しい」
「ここで息を吸いたい」
という感覚が
体に残ります。

その記憶が、
相手を助ける伴奏に
変わっていきます。

逆に、歌う方が鍵盤に触れると

この関係は、逆向きにも働きます。

歌を歌う方が鍵盤に触れると、
和音の中で
自分の声がどこにいるのかが
見えるようになります。

今出している音が、
和音のどの位置にあるのか。

耳だけでは
ぼんやりしていたものが、
鍵盤の上では
目で見えます。

弾く人には息を。
歌う人には和音を。

互いに、
自分の楽器だけでは
得られないものを
補い合っています。

上手に歌う必要は、まったくありません

最後に、いちばん大事なことを
お伝えします。

ここで歌うことは、
歌がうまくなるための
ものではありません。

音程が外れても構いません。
声が小さくても構いません。
途中で止まっても構いません。

誰かに聴かせるためではなく、
自分の音楽を
確かめるために歌うからです。

目的がまったく違います。

そう思えると、
抵抗はずいぶん軽くなります。

両方に触れられる場所で

とはいえ、
人前で声を出すのは、
やはり勇気がいります。

笑われないだろうか。
下手だと思われないだろうか。

だからこそ、
「音程は気にしなくていいですよ」
「今の息継ぎ、大事な発見でしたね」
そう受け止めてくれる場所が
必要なのだと思います。

サヴァサヴァは、
ジャズピアノとジャズボーカルの
両方を扱っています。

弾く方にも歌に触れていただき、
歌う方にも鍵盤に触れていただく。
そのほうが、
音楽が深くなるからです。

あなたの音楽に、
もう一つの入り口を
足してみませんか。

Music Space サヴァサヴァ
   野口 尚宏

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