練習しているのに、なぜ変わらないのか
毎日、練習している。
時間もかけている。
それなのに、
音がなかなか変わらない。
そんな経験は、
誰にでもあると思います。
回数が足りないのだろうか。
才能の問題だろうか。
でも、多くの場合、
原因はそこではありません。
ピアノでも、歌の発声でも、
上達のカギを握っている作業が
一つあります。
そして、それは
一番難しい作業でもあります。
まず、自分の音がどう出ているかを知る
最初の関門は、
自分が今、どんな音を
出しているのかを
正確に把握することです。
これが、驚くほど難しい。
自分の音は、
骨や体を伝って
内側からも聴こえています。
だから、実際に外へ出ている音とは
違って聴こえるのです。
さらに、演奏中は
指のこと、歌詞のこと、
次の展開のことで
頭がいっぱいになります。
音を出すことに必死で、
出た音を聴く余裕が
残っていない。
まずここを、
意識的に開いていく必要があります。
理想の音が、自分の中にあるか
次に必要なのが、
理想の音です。
比べる相手がなければ、
差は生まれません。
「こういう音が出したい」
という像が、
自分の中にはっきりあるかどうか。
これは、たくさん聴くことでしか
育ちません。
好きな演奏家の音。
心が動いた歌声。
思わず巻き戻して
もう一度聴いた瞬間。
それらが積み重なって、
自分の中の理想像が
形づくられていきます。
理想の音を持っているかどうかで、
同じ一時間の練習の中身が
まったく変わります。
本当に難しいのは、その差を忘れないこと
そして、ここからが
今日の本題です。
自分の音を把握し、
理想の音と比べて、
「ここが違う」と気づく。
実は、気づくところまでは
多くの人がたどり着きます。
問題は、その先です。
気づいた差を、
覚えていられるかどうか。
レッスンで指摘されて、
その場では確かにわかった。
音の違いも聴き取れた。
それなのに、
翌日にはもう
元の音に戻っている。
この繰り返しが、
上達を止めている
本当の原因です。
なぜ、差は消えてしまうのか
気づいたはずの差が
消えてしまうのには、
理由があります。
音は、目に見えません。
形も残らず、
その場で消えていきます。
楽譜なら、書き込みが残ります。
言葉なら、メモに残ります。
でも「音の質感の差」は、
どこにも残りません。
そのうえ、体には
これまでの癖が
深く染みついています。
意識が緩んだ瞬間に、
体は慣れた出し方へ
戻ろうとします。
だから、差を覚えておく作業は、
意志の力というより、
技術に近いものなのです。
差を、記憶に残していく方法
では、どうすればいいのか。
一つは、言葉にすることです。
「音の立ち上がりが硬い」
「息が最後まで続いていない」
「もっと奥から鳴らしたい」
正確な用語でなくて構いません。
自分にわかる言い方で十分です。
言葉にすると、
消えるはずの感覚に
取っ手がつきます。
もう一つは、
身体の感覚とセットで覚えることです。
理想に近い音が出た瞬間、
指はどうなっていたか。
喉や息はどうだったか。
体のどこが緩んでいたか。
音の記憶は消えやすいのですが、
身体の感覚とつなげておくと、
ずいぶん残りやすくなります。
そして、次の練習の最初に、
前回の差を思い出すこと。
この一手間があるかないかで、
練習は積み重なるものにも、
毎回振り出しに戻るものにも
なります。
差を持ち歩ける人は、練習が変わる
この作業ができるようになると、
練習の意味が変わります。
ただ回数をこなす時間から、
差を埋めにいく時間へ。
何を直そうとしているのかが
自分でわかっているので、
五分の練習でも中身が濃くなります。
そして、差が一つ埋まると、
すぐに次の差が見えてきます。
これは、終わりのない作業です。
でも、差が見えているということは、
進む方向が見えている
ということでもあります。
迷子になっている状態とは、
まったく違うのです。
その差を、一緒に見つけていきませんか
とはいえ、この作業を
一人で続けるのは
かなり骨が折れます。
自分の音がどう出ているかは、
自分が一番
わかりにくい場所にあるからです。
「今の音、前回と違いましたよ」
「そこ、理想に近づいていました」
そう外から言ってくれる人がいると、
消えてしまうはずだった差が
記憶として残っていきます。
サヴァサヴァでは、
正しい弾き方を押しつけるのではなく、
あなたが理想とする音と、
今の音との差を
一緒に見つけていきます。
その差を持ち歩けるようになったとき、
あなたの音は
確実に変わり始めます。
Music Space サヴァサヴァ
野口 尚宏

