伝えたいのに、言葉が出てこない
本当は、伝えたいことがある。
ありがとう、と言いたい。
心配している、と伝えたい。
あのときのこと、謝りたい。
それなのに、
いざその人を目の前にすると、
言葉が喉の手前で止まってしまう。
結局、当たり障りのない話をして、
その日も伝えられないまま終わる。
大切な人ほど、
素直になれない。
そんなもどかしさを
抱えている方に、
今日は少し変わった話を
させてください。
歌うことが、その助けになるという話です。
素直になれないのは、心がないからではない
まず、大前提をお伝えします。
素直に伝えられないのは、
気持ちがないからではありません。
むしろ逆で、
気持ちが大きすぎるから
出せなくなるのです。
素直な言葉というのは、
自分の内側を
そのまま相手に見せる行為です。
見せた瞬間、
自分は無防備になります。
受け取ってもらえないかもしれない。
重いと思われるかもしれない。
笑われるかもしれない。
その怖さが、
言葉を喉の手前で止めます。
つまり、必要なのは
気持ちを育てることではなく、
素直になることへの
慣れなのです。
歌詞は、あなたを守ってくれる
ここで、歌の出番です。
歌には、面白い性質があります。
歌詞は、あなたの言葉ではありません。
誰かが書いた言葉です。
だから、どれだけ切実なことを歌っても、
「これは自分が言っているのではない。
歌が言っているのだ」と
思うことができます。
この、ほんの少しの距離が、
大きなお守りになります。
守られた状態で、
愛や、寂しさや、感謝を、
声に出してみる。
普段なら決して口にできない感情を、
安全な形で
体験することができるのです。
歌は、素直さの稽古場です。
感情を乗せる回路を、久しぶりに使う
大人になると、
私たちは感情を抑えて話す訓練ばかりを
積んでいきます。
仕事では冷静に。
相手を刺激しないように。
感情的だと思われないように。
それは社会を生きる知恵ですが、
続けているうちに、
感情を声に乗せる回路が
錆びついていきます。
ところが歌は、逆です。
感情を乗せなければ、
そもそも成立しません。
だから歌うたびに、
錆びついていた回路に
もう一度電気が通ります。
最初は、うまく通りません。
照れくさくて、
声が縮こまります。
でも、繰り返すうちに、
感情を声に乗せることが
だんだん自然になっていきます。
一番怖いことを、先にやってしまう
もう一つ、大きな効果があります。
人前で歌う、という経験です。
恥ずかしがり屋の方にとって、
これは相当に怖いことだと思います。
でも、だからこそ意味があります。
人前で歌えた人は、
こう気づきます。
「あれができたなら、
人前で話すくらい、なんでもない」
ハードルが、逆転するのです。
会議での発言。
結婚式のスピーチ。
初対面の人との会話。
あれほど重かったものが、
歌に比べれば軽く感じられる。
一番怖いことを先に経験しておくと、
その他のことが
ずいぶん楽になります。
素直さは、使うほど育つ
そして、時間をかけて、
ゆっくりと変化が訪れます。
素直さは、
性格ではなく筋肉に近いものです。
使わなければ衰え、
使い続ければ育ちます。
歌の中で、
感謝や愛おしさを声に出し続けていると、
その感覚が
日常にも滲み出してきます。
ある日ふと、
言えなかった言葉が
するりと出てくる瞬間があります。
「ありがとう」
「心配してたよ」
「あのときは、悪かった」
大げさな告白ではありません。
ほんの短い一言です。
でも、その一言が言えるかどうかで、
大切な人との関係は
まったく違うものになります。
まず、自分の心に素直になることから
最後に、順番の話をします。
誰かに素直になる前に、
まず自分の心に
素直になる必要があります。
自分が本当は何を感じているのか。
寂しいのか、悔しいのか、
ただ感謝しているのか。
歌うと、それが見えてきます。
ある歌詞で、思いがけず声が震える。
ある一節で、胸が詰まる。
そこに、
自分でも気づいていなかった
本当の気持ちが隠れています。
自分の心に素直になれた人だけが、
大切な人にも
素直に向き合えるようになります。
その稽古を、安心できる場所で
ただ、素直さの稽古は、
一人ではなかなかできません。
誰も聴いていない部屋で歌っても、
結局そこには
自分しかいないからです。
誰かの前で声を出し、
「今の歌、心が動きました」と
受け止めてもらう。
その体験を一つずつ積むことでしか、
素直さへの怖さは
ほどけていきません。
サヴァサヴァは、
下手でも、震えても、
そのまま受け止められる場所です。
あなたの中にある本当の言葉を、
まずは歌から
出してみませんか。
Music Space サヴァサヴァ
野口 尚宏

