癖との付き合い方|直す癖と育てる癖

暖かな光の部屋で、男性が穏やかな表情でピアノを弾き、そこから生まれる黄金の音が独特のカーブを繰り返す手書きの署名のような線を描く水彩アニメ風イラスト。隣にもう一本の細い光の線が並走し、下部中央に「癖は、あなたの筆跡です。」の白いテキスト。

「その癖、直しましょう」と言われて

指の形。
力の入り方。
いつも同じところで走ってしまう。
気づけば似たフレーズばかり弾いている。

誰にでも、演奏の癖があります。

そして多くの方が、
その癖を欠点だと思っています。

直さなければいけない。
早く消さなければいけない。

でも、少し待ってください。

その癖のすべてが、
本当に消すべきものなのでしょうか。

癖には、二種類ある

まず、大切な区別をします。

癖には、二つの種類があります。

一つは、あなたを狭くする癖。
もう一つは、あなたを形づくる癖です。

前者は、直したほうがいい。
後者は、育てたほうがいい。

問題は、この二つが
見た目にはよく似ていることです。

だから多くの人が、
育てるべきものまで
まとめて消そうとしてしまいます。

見分ける基準は、上手い下手ではない

では、どう見分けるのか。

基準は、意外なところにあります。

「やめようと思えば、やめられるか」
ということです。

やめようと思ってもやめられない。
気づいたら出てしまっている。

それは、あなたが癖に
操られている状態です。

一方で、
出そうと思えば出せるし、
やめようと思えばやめられる。

それはもう癖ではありません。
あなたが選んで使っている
表現です。

同じ音の出し方でも、
選べるかどうかで
意味がまったく変わるのです。

だから、目指すのは「消すこと」ではない

ここから、練習の考え方が変わります。

癖を直すというと、
「その出し方を封印する」ことだと
思いがちです。

でも、そうではありません。

やることは、
別の出し方も身につけることです。

いつも強く弾いてしまうなら、
弱く弾く方法も覚える。
いつも走ってしまうなら、
ためて入る感覚も覚える。

元の出し方を捨てるのではなく、
その隣にもう一つ
引き出しを増やす。

引き出しが二つになった瞬間、
あなたは選べる人になります。

そして選べるようになったとき、
元の癖は欠点ではなく、
使える手札に変わっています。

それでも直したほうがいい癖

もちろん、
はっきり直したほうがいいものも
あります。

体を痛める弾き方。
力みすぎて長く続けられない発声。

これは個性以前に、
あなたが音楽を長く続けるための
問題です。

もう一つは、
他の人と合わせられなくなる癖です。

自分のテンポでしか弾けない。
相手の音が入る隙間を
作れない。

これは、
一人で弾く分には問題なくても、
誰かと音楽をするときに
壁になります。

体を守れなくなる癖と、
人と関われなくなる癖。

この二つだけは、
個性として抱えないほうがいいと
思っています。

癖は、あなたの筆跡です

ここで、少し視点を変えてみます。

私たちの手書きの文字には、
それぞれ癖があります。

はねが強い人。
丸みのある人。
右上がりの人。

でも、その癖を
全部消したいと思う人は
あまりいないはずです。

読めればいい。
むしろ、その癖があるから
その人の字だとわかる。

音も、同じです。

誰が弾いても同じ音になるなら、
そこにあなたがいる意味は
ありません。

癖は、あなたがこれまで
どう音楽と付き合ってきたかの
記録です。

好きな演奏家にも、癖がある

思い出してみてください。

あなたが好きな演奏家の音を、
なぜ好きなのでしょうか。

おそらく、
正確だからではないはずです。

あの独特のタッチ。
あの入り方。
あの終わり方。

それらはすべて、
その人の癖です。

ただ、その人は
その癖を意識的に使えるところまで
育ててきました。

癖を消した先に個性があるのではなく、
癖を扱えるようになった先に
個性があるのです。

あなたの癖を、一緒に見ていきませんか

ただ、正直なところ、
この見分けは
自分では難しいものです。

自分の癖は、
自分にとっては当たり前すぎて、
癖だと気づけません。

そして気づいたときには、
まとめて欠点だと
思い込んでしまいがちです。

「それは直しましょう」
「でも、そこは残しましょう」
そう分けてくれる人がいるだけで、
あなたは自分を
削らずに済みます。

サヴァサヴァでは、
正しい形に矯正するのではなく、
あなたらしさを残したまま
選択肢を増やしていきます。

その癖は、
あなたの音の入り口かもしれません。

Music Space サヴァサヴァ
  野口 尚宏

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