「上手い」より「届く」へ。技術は、誰かと繋がるための架け橋

楽器を奏でるミュージシャンから発せられる音が、温かい光の架け橋となって聴く人の心と繋がっている様子:技術よりも心の繋がりを重視する音楽

「どれだけ速く弾けるか」
「どれだけ難しいコードを知っているか」
かつては技術的なスペックが評価の対象でしたが、今は違います。

聴き手は、驚きたいのではなく、
「感動したい(心を動かしたい)」のです。
技術で圧倒しようとする演奏は「壁」を作りますが、
心を届けようとする演奏は「橋」を架けます。

伝えたいことを、迷わず伝えるために

では、技術は不要なのでしょうか?
いいえ、最低限の技術は絶対に必要です。
しかし、その目的が違います。

指を動かすための練習ではなく、
「心で思ったことを、指先まで淀みなく伝えるため」の練習です。
基礎技術がないと、伝えたい感情があっても、
指先で詰まってしまったり、ノイズが混じったりします。
基礎練習とは、自分と楽器の間にある「通信回線」をクリアにするための作業なのです。

孤立から繋がりへ

セッションにおいて最も大切なのは、アドリブの華麗さではありません。
「今、相手が何をしようとしているか」
「自分はそこでどう支えられるか」を感じ取る力です。

言葉が通じなくても、音を交わすだけで相手の性格や今の気分が分かる。
そして、一つのグルーヴを共有した瞬間に、
他人同士が深い部分で繋がることができる。
この「他者との接続(コネクション)」こそが音楽の真の喜びであり、
私たちが楽器を弾く本当の理由なのかもしれません。

技術は「武器」ではなく、誰かと手をつなぐための「言葉」です。
「上手く見せよう」という鎧を脱いで、
「届けよう」という想いで音を出してみてください。
その音はきっと、誰かの心に深く、優しく響くはずです。

野口 尚宏