上達が止まる時期こそ、心が育っている時間

成長の静かな時間を象徴するレトロジャズ風イラスト

練習しているのに上達している実感がない。
今まで弾けていたことが急にできなくなる。
声が出にくい。アイデアが湧かない。

音楽に向き合っていると、誰にでも必ず訪れる時期です。

しかし、この 「停滞のように見える時間」こそ、
心が静かに育っている時期 なのです。

日々の生活や心の状態、思考の流れ、身体の変化。
こうしたものがすべて“音”に滲み出るのが音楽。

だからこそ、上達が止まったように見える時期は、
音を出す前の「自分の内側」が成長しているサイン とも言えます。


音楽の成長は、滑らかな曲線ではありません。
経験を重ねた多くの方が語るのは、次のような実感です。

停滞 → 停滞 → 急に一段上がる

技術も心も、階段を一段ずつ登るように育ちます。

階段を登っている最中は、
「動いていないように見える」
というだけ。

階段の踊り場にいる時は、
身体も心も次の段を上る準備をしているのです。

それが、停滞期が意味を持つ最大の理由です。


深い音には、深い静けさがあります。
深い歌には、深い呼吸があります。

停滞期に起こっている“見えない変化”

  • 耳が繊細になっている
  • 細かいニュアンスに気づけるようになる
  • 表現の幅が広がっている
  • 誠実に向き合う力が育っている
  • 「何を大切にしたいか」が明確になっている

これらはすべて、
すぐには結果として現れない 成長です。

しかし、この内側の成熟こそが、
後の「飛躍」を支える土台になります。


いつも順調に上達するわけではないからこそ、
音楽に誠実に向き合う力が生まれます。

誠実さが育つと、音が柔らかくなる

  • ミスを恐れなくなる
  • 焦りが減る
  • 他人と比べなくなる
  • 一音一音に心が宿る
  • 自分のペースを大切にできる

これは音楽に限らず、
人生を丁寧に歩くための大きな力にもなります。


ジャズのアンサンブルでは、
その日の心の状態がそのまま音になります。

調子が良い日ばかりではありません。
アイデアが湧かない日があってもいいのです。

その“まま”の自分で音を出すこと

これが、音楽の本質でもあります。

停滞している自分を責めず、
その日の呼吸・ペース・心の温度のままで音を出す。

そうすることで、
音楽は日常とつながり、人生とつながっていきます。


① 録音を聞き返し、変化を探す

“上達した部分”ではなく、
“心が柔らかくなっている部分”を探してみてください。

② 技術より“音の質”に意識を向ける

今の気持ちがどんな音になるのかを大切に。

③ ゆっくり弾く・ゆっくり歌う

停滞期は、丁寧に音を見るチャンスです。

④ 小さな成功を記録する

「今日の声は少し明るかった」
それだけで十分です。


停滞は止まっている時間ではなく、
内側の根が深く伸びている時間 です。

焦らなくて大丈夫。
急がなくて大丈夫。

あなたが大切にしてきた誠実さが、
そのまま音の未来を支えています。

今日もあなたのペースで。
ゆっくり、静かに、進んでいきましょう。

野口 尚宏