“音痴”と思い込む人ほど変わるのが早い理由

思い込みから解放される声の変化を描いた水彩イラスト

「自分は音痴だから無理です」
「昔から声がコンプレックスで…」

そう言ってレッスンに来られる方は多いですが、
私はいつもこう思っています。

“音痴だと思い込んでいる人ほど、変わるのが早い” と。

これは決して慰めではなく、
長年のレッスンの中で何度も確かめてきた事実です。


人は、幼い頃に誰かに言われたひとことで
自分の声に自信をなくすことがあります。

  • 「その歌、ずれてるよ」
  • 「声が小さいよ」
  • 「音痴やなぁ」

ほんの一言が心に残り、
そこから“自分は音痴だ”と誤解してしまう。

しかし実際は、
声帯も耳も、ほとんどの人が正常に働いています。

音痴の多くは「能力の問題」ではなく「心の緊張」

  • 自分の声が嫌い
  • 合っているか不安
  • 他人にどう思われるか気になる
  • そもそも声を出すことに力が入る

これらは技術ではなく、
“心の問題”として現れます。

だからこそ、
心が変わると声も一気に変わります。


① 固まっていた思い込みが外れると、一気に伸びる

「え? 私、歌っていいんですか?」
そんな瞬間、声が劇的に変わる人がいます。

“ダメだと思い込んでいた自分”が溶けると、
身体の力みが一気になくなるからです。

② 力を抜くことが上達の一番の近道

思い込みがある人ほど、
実は余分な緊張を抱えています。

その緊張が取れた瞬間、
声がストレートに響き始めます。

③ 真っ白な状態なので、正しい響きを素直に吸収する

「クセが強くて直らない」というタイプよりも、
思い込みだけがブレーキになっていたタイプは
吸収が圧倒的に早いのが特徴です。

④ “できない自分”を責めていない人は伸びる

「自分は音痴だと思っていたけど、ただ知らなかっただけ」
と気づくと、心のスペースが広がります。

この“余白”こそ、上達が早い最大の理由です。


声は、ピアノの鍵盤のような
外側の楽器ではありません。

心 → 呼吸 → 身体 → 声

という流れで変わる
**「内側から響く楽器」**です。

だからこそ、

  • 自分を責めない
  • 無理に大きな声を出そうとしない
  • 正しい発声より“正直な声”
  • 周りを気にせず、自分の呼吸で歌う

これができるようになると、
声は自然に育ち始めます。


ジャズは“正確さ”よりも
ニュアンス・誠実さ・自分らしさ を大切にします。

だから、

  • 小さな声でもいい
  • 不完全でもいい
  • ミスしてもいい
  • ありのままの声が価値になる

こういう音楽です。

ジャズは「評価されるための声」ではなく

“その人の声”を肯定していく音楽。

だからこそ、思い込みをほどく力があります。


「音痴だと思ってきた自分」に優しくなること。
声に対する小さな誤解を手放すこと。

それだけで、
声は柔らかく、真っすぐに響き始めます。

そしてその変化は、
若い人よりも、
大人の方が早いことが多いのです。

声は心を映す鏡。
心がほどければ、声もほどけます。

今日から、もう“音痴”という言葉を
自分に向けないでください。

あなたの声は、変わる力をもう持っています。

野口 尚宏