聞こえない音が、演奏を支えている
ピアノに向かって練習しているとき、
あなたの耳には「自分のピアノの音」だけが聞こえていますか?
もしそうだとしたら、少しもったいないかもしれません。
ジャズのアドリブにおいて最も大切な技術の一つ、
それは「鳴っていない音を想像する力」です。
目に見える鍵盤や、実際に鳴っている音だけが音楽ではありません。
その背後にあるリズムやハーモニーの気配を感じ取ること。
それが、生きたフレーズを生み出す第一歩なのです。
一人で弾いていても、バンドはそこにいる
空想のドラムとベースを従えて
私たちは普段、ピアノ一台で練習することが多いですが、
ジャズは本来アンサンブルの音楽です。
たとえ部屋に一人きりでも、心の耳でドラムのシンバル(レガート)を聞き、
ウッドベースの重低音を感じてみてください。
「ここでドラムがプッシュしてきたな」「ベースがルートを弾いて支えてくれているな」
そうやってイマジネーションを働かせると、
不思議なことに「今、自分が弾くべき音」が明確に見えてきます。
逆に言えば、この想像力がないと、
不安になって音を詰め込みすぎてしまうのです。
音楽的視点:音楽は「選ぶ」行為
全部を弾こうとしなくていい
「アドリブ=音をたくさん足すこと」と勘違いされがちですが、
実はその逆です。
音楽は、元ある豊かなハーモニーの中から
、その瞬間に最もふさわしい音を「選び出す」行為です。
例えば、彫刻家が木の中から仏像を彫り出すように、
私たちもハーモニーという大きな塊から、余分な音を削ぎ落とし、
キラリと光る一音を選び取る。それが「引き算の美学」です。
想像上のベース音が鳴っていれば、
ピアノで左手を分厚く弾く必要はありません。
想像上のドラムがリズムを刻んでいれば、慌てて音符を埋める必要もありません。
「鳴っていない音」を信頼することで、あなたのピアノには美しい「余白」が生まれます。
心への効果:想像力が心を自由にする
この「想像するトレーニング」は、楽器の練習だけでなく、
心の視界も広げてくれます。
目に見えるもの、耳に聞こえるものだけにとらわれず、
その奥にある本質を感じようとすること。
それは、他人の言葉の裏にある感情を汲み取ったり、
日常の風景から新しい発見をしたりする感性にも繋がります。
音を詰め込むのをやめて、耳を澄ませてみましょう。
静寂の中にこそ、一番豊かな音楽が鳴っています。
本当に必要だと思う「一音」を求めて
今日からピアノの椅子に座るとき、隣にベーシストが、
後ろにドラマーがいると想像してみてください。
彼らの音を感じながら、
あなたが本当に必要だと思う「一音」だけをそっと置いてみる。
その音が、きっとあなたのジャズを劇的に変えてくれるはずです。
教室で、その「見えない共演者」とのセッションを一緒に楽しみましょう。
野口 尚宏

