ピアノは「主役」じゃない。「監督」だ。マイルスが愛した、名脇役たちの仕事

スポットライトの中のトランペット奏者のシルエットと、その背景で世界観を演出するピアニスト:ジャズピアノは映画監督の役割

ジャズピアノを弾く時、
どうしても「自分がどう目立つか」を考えてしまいがちです。
しかし、ジャズの歴史を紐解くと、
ピアノの本来の役割は少し違うところにあることが分かります。

トランペットやサックスといった管楽器が、
スポットライトを浴びる「主演俳優」だとしたら、
ピアノの役割は、その映画の世界観を作る「映画監督」であり「舞台美術家」なのです。

巨人を支えた、三者三様の「演出」

「帝王」と呼ばれたトランペット奏者、マイルス・デイビスのバンドには、
歴史に残る名ピアニストたちが在籍していました。

  • レッド・ガーランド: 軽快でスウィングする「楽しい舞台」を用意した。
  • ウィントン・ケリー: 絶妙な合いの手で、主役を気持ちよく「乗せた」。
  • ビル・エヴァンス: 知的で静謐な和音で、まるで「美しい霧」のような空間を作った。

彼らはマイルスという主役を立てながら、
それぞれの解釈で「バンドのサウンド(背景)」を決定づけていました。
主役がどう動くかは、彼らが敷いたレール(伴奏)次第だったのです。

空間を支配する喜び

ジャズでは伴奏のことを「コンピング(Comping)」と呼びます。
これは「Accompaniment(伴奏)」と「Compliment(称賛・引き立てる)」が語源だと言われています。

ピアノがどんなコードをどんなリズムで弾くかによって、
管楽器のフレーズは悲しくもなれば、激しくもなります。
最前線で音を出すのではなく、一歩引いた場所からバンド全体の空気をコントロールする。
これこそが、ジャズピアノにおける「監督」としての醍醐味です。

「俺が、俺が」と前に出るだけがジャズではありません。
歴史を作った名手たちのように、主役を輝かせ、空間全体を自分の色に染め上げる。
そんな「監督」としてのピアノを楽しんでみませんか?

野口 尚宏