譜面は「命令」じゃない。「意思」を持って、バイエルを弾く。

シンプルな楽譜から溢れ出る色とりどりの光(隠された和声や感情)を見つけ出し、意思を持ってピアノを弾く様子:解釈の力

「バイエル=初心者のための指の運動」と思っていませんか?
確かに音符はシンプルですが、そこには間違いなく、
作曲者が意図したメロディの起伏や、和声(コード)のドラマが存在しています。

もしあなたがバイエルを弾いていて「退屈だ」と感じるなら、
それは楽譜をただの「記号の羅列」として処理してしまっているからかもしれません。

譜面の裏にある「必然」を読む

例えば、ドからソへ音が跳躍する時。
そこにはエネルギーの高まりがあります。
あるいは、不安定な響き(ドミナント)から安定した響き(トニック)へ解決する時。
そこには「ホッとする感覚」があります。

「ここで音が上がったということは、気持ちを盛り上げたいんだな」
「ここで和音が落ち着いたから、優しく弾き終わりたいな」

音符の動きや和声の意味を感じ取れば、
「ここはこう弾くしかない」という『意思』が自然と芽生えるはずです。
これこそが、音楽的な表現の第一歩です。

脚本を変えずに、名演をする

ジャズのアドリブは、自分で言葉(音符)を作ることです。
対してクラシックや譜面通りの演奏における「解釈」は、
「決められた脚本(楽譜)を、いかに魅力的に演じるか」ということです。

名俳優は、台本のセリフを勝手に変えたりはしません。
しかし、その「間」や「声のトーン」、「抑揚」によって、
観客の心を震わせます。 譜面にある音符は一つも変えなくても、
あなたの「意思」が乗った瞬間、そのバイエルは世界で一つだけの物語に変わります。

楽譜は、作曲者からの「手紙」であり、
あなたへの「問いかけ」です。
「君なら、このメロディをどう歌う?」

言われた通りに弾くのではなく、自分で考え、自分で決めて弾く。
その能動的なアプローチがあれば、
どんなシンプルな練習曲も、最高の音楽になります。

野口 尚宏