まずは、自分の音を聴く。楽譜を見る前にやるべき、たった一つのこと

目を閉じて、自分の奏でる一音一音に深く耳を澄ませるミュージシャンの姿:上達の基本は自分の音を聴くこと

「もっとよく聴いて」。 レッスンの現場で、
最も多く使われる言葉の一つかもしれません。

「聴いてますよ!」と反論したくなる気持ちもわかります。
しかし、多くのプレイヤーは、
「音を出そうとする意識(送信)」が強すぎて、
「出た音を受け取る意識(受信)」
がおろそかになっています。

自分がどんな音色で、どんなピッチで、
どんなタイミングで鳴らしているのか。
それをリアルタイムで正確に把握できていなければ、
どんなに指が回っても、それは「音」ではなくただの「作業」です。

耳は、最高のフィードバック装置

録音を聴いて「あれ、こんな演奏だったの?」
と愕然とした経験はありませんか?
それは、演奏中に自分の音が聴こえていなかった証拠です。

上達が早い人は、「自分の音を聴く耳」が研ぎ澄まされています。
弾いた瞬間に「あ、今の音は少し硬かったな」「響きが足りないな」と気づくことができる。
だから、その瞬間に修正ができるのです。
自分の音が、一番の先生となって改善点を教えてくれているのです。

視覚を遮断してみる

一度、楽譜から目を離し、鍵盤や指板も見ずに、
目を閉じて演奏してみてください。
そして、ロングトーン(長く音を伸ばすこと)を一音だけ鳴らしてみましょう。

  • その音は、あなたがイメージした通りの温かさですか?
  • 真っ直ぐ伸びていますか?
  • 部屋の空気をどう震わせていますか?

視覚情報をシャットアウトすると、
驚くほど多くの「音の情報」が飛び込んできます。
そこにあるのは、理想とは違う、生々しいあなたの「今の実力」です。

まずはそこからです。
現実の音をしっかりと聴き、受け止めること。

自分の音を愛し、厳しく見つめる「耳」を持った時、
あなたの演奏は独りよがりなものから、
誰かに届く「音楽」へと変わり始めます。

野口 尚宏