準備はいらない。「スリル」こそが、最高のアドリブをつくる

未知の空間で、その瞬間に現れる光の糸(音)を紡ぎ出しながら演奏するミュージシャン:スリルと集中力が生む奇跡のアドリブ

発表会やセッションの前、
「もっと練習しておけばよかった」「まだ準備が足りない」
と不安になることはありませんか?
私たちはつい、楽譜通り、
練習通りに完璧に弾くことを「正解」だと思い込んでしまいます。

しかし、ことジャズのアドリブにおいては、「準備できていないこと」が、
逆に素晴らしい結果を生むことがあるのです。

予定調和を壊す勇気

すべてが練習通りに弾けてしまう時、演奏は安定しますが、
同時に「予定調和」なものになりがちです。
そこにはハラハラするようなドラマがありません。

逆に、「次はどう弾こうか全く決めていない」という状態は、
崖っぷちを歩くようなスリルがあります。
この「どうなるか分からない」というスリルこそが、
脳を覚醒させ、普段は眠っている爆発的な集中力を引き出すトリガーになるのです。

「今」に集中するしかない状態

準備したストック(手癖フレーズ)に頼れない時、
私たちは必死になります。
過去の記憶ではなく、「今、ここで鳴っている音」に全神経を集中し、
耳を澄ませるしかなくなります。

「ドラムがこう来た」「ベースが動いた」
その瞬間の音を聴き逃すまいとする極限の集中状態。
これこそが、音楽と一体化する「ゾーン(フロー状態)」への入り口です。

紡ぎ出される奇跡のフレーズ

あなたが仰る通り、その研ぎ澄まされた状態で耳を澄ませば、
「今、ここで鳴らすべき必要な音」が自然と見えてきます。

それは、家で考えた複雑なフレーズよりも、
もっとシンプルで、もっと説得力のある「生きた音」のはずです。
「考える」のではなく、その場の空気に「反応して紡ぎ出す」
そうやって生まれたアドリブは、聴いている人の心にもダイレクトに届く、
二度と再現できない名演となります。

もし本番で頭が真っ白になったり、
準備不足を感じたりしても、怖がる必要はありません。
それは「最高のアドリブ」が生まれるチャンスです。

深呼吸をして、スリルを楽しみましょう。
あなたの耳と感性を信じて、その瞬間に身を委ねれば、
きっと素晴らしい音が降りてきます。

野口 尚宏