感動のスピード。「意味」より先に「音」が心に届く理由

言葉(浮遊する文字)よりも速く、一直線に心に届く黄金の音の光:感動のスピードの違い

歌詞の意味が全く分からない外国語の曲を聴いて、
ふいに涙がこぼれた経験はありませんか?

もし感動が「言葉の内容(意味)」から生まれるなら、
意味の分からない歌で感動するのは不可能です。
しかし、現実に私たちは感動します。
それは、「感動するスピードは、言葉よりも音そのものの方が圧倒的に速い」からです。

0.1秒で決まる「響き」

言葉(歌詞)を理解するには、一度「脳」を通すプロセスが必要です。
「これはこういう意味だ」と処理して初めて感情が動きます。
これには多少のタイムラグがあります。

一方、「音(サウンド)」は本能に直結しています。
誰かの悲鳴を聞いた瞬間、思考する前に背筋が凍るように、
美しい音色は理屈抜きで瞬時に心の琴線(きんせん)を弾きます。

歌詞よりも「声」、旋律よりも「サウンド」

良い歌を聴いた時、私たちが本当に感動しているのは、
実は歌詞の文学性以上に、
その歌手の「声のトーン(色)」であることが多いのです。
「悲しい歌詞だから悲しい」のではなく、
「悲しみを含んだ声色」だから、心が震えるのです。

楽器も同じです。どんなに複雑で美しい旋律(メロディ)よりも、
たった一音の「サウンド(音色)」の深さの方が、
聴く人の記憶に強く刻まれることがあります。
マイルス・デイヴィスのペットが、
たった一音で会場の空気を変えてしまうのがその好例です。

音の「質感」を磨く

練習をしていると、
つい「どんなフレーズを弾くか(内容)」や
「正しい音程か(旋律)」ばかりに気を取られがちです。
しかし、聴き手に本当の感動を届けたいなら、
意識すべきは「音そのものの質感」です。

  • そのピアノのタッチは、温かいですか?
  • そのサックスの音色は、聴く人を包み込んでいますか?

小手先のテクニックや言葉の説明は要りません。
磨き上げられた「良い音」さえあれば、
それは光の速さで相手の心に届き、
言葉以上に雄弁にあなたの感情を伝えてくれます。

言葉は、あとからついてきます。
まずは、あなた自身の「音」を信じてください。
理屈を超えて、一瞬で誰かの心を震わせる力が、
その一音には秘められているのですから。

野口 尚宏