楽譜はただの約束事。音を聴き合い、心と語る音楽の本質

楽譜を見ずに互いの目を見て演奏するジャズミュージシャンたち:音による会話と心のつながり

ピアノに向かうとき、あるいは歌うとき、
あなたの意識はどこに向いているでしょうか?
もし、その意識の100%が目の前の「楽譜」という紙の上にあるとしたら、
それはとてももったいないことかもしれません。

「楽譜通りに間違えず弾くこと」が
音楽のゴールだと思われがちですが、実は違います。
楽譜はあくまで「約束事」を書いたメモのようなもの
最低限の取り決めに過ぎません。
そこから顔を上げ、耳を開いたときに初めて、本当の音楽が始まります。

楽譜は地図、音楽は景色

楽譜は、目的地へ行くための「地図」です。
地図を見ることに必死になって、
車窓から見える美しい海や山の景色(=音の響き)を見逃してしまっては、
旅の楽しみは半減してしまいますよね。

音楽も同じです。
楽譜という地図を頭に入れたら、
あとはお互いの音を聴き合うことに集中します。
ジャズのセッションでは、この「聴く」という行為が何より重要です。
相手が強く弾けば自分は支えたり、逆に隙間があれば埋めたり。
その瞬間の音の対話こそが、音楽を音楽たらしめるのです。

アンサンブルは会話そのもの

「合わせる」のではなく「混ざり合う」

「音を合わせる」というと、タイミングをピッタリ揃えることだと思いがちですが、サヴァサヴァで大切にしているのは、音が「混ざり合う」感覚です。

相手の音の成分、音色、そしてその裏にある感情を感じ取る。
そうして出した自分の音が相手の音と溶け合ったとき、
一人では決して出せない豊かな響きが生まれます。
これは、言葉の会話で相槌を打ったり、
相手の目を見て微笑んだりするのと同じ、心のコミュニケーションなのです。

ソロ演奏は自分自身とのセッション

「私は一人でピアノを弾くから関係ない」と思われるかもしれませんが、
ソロ演奏もまた、アンサンブルです。
それは、自分の心とのセッションだからです。

今日出した音は、優しい音か、元気な音か。
自分の指先から出る音を、もう一人の自分が客観的に聴き、
それに対してまた音で答える。
自分の心に語りかけるように弾くことで、独りよがりではない、
聴く人の心に届く演奏になります。

心への効果:視覚から解放される自由

目を閉じると音が見えてくる

楽譜という「視覚情報」への依存を少し減らしてみましょう。時には目を閉じて弾いてみてください。すると、今まで聞こえなかった音の余韻や、リズムの揺らぎが「見えて」くるはずです。

音には人が出ます。楽譜というルールに縛られすぎず、その場の空気や心の動きを音に乗せること。その自由さが、あなたの心を解放し、日々の生活にも心の余裕をもたらしてくれるでしょう。

楽譜は大切ですが、それが全てではありません。
大切なのは、その紙の向こう側にある「音」と「心」です。

間違ってもいいのです。
楽譜から少し目を離し、周りの音、
そしてあなた自身の心の声に耳を澄ませてみてください。
そこで響き合う音こそが、あなただけの素晴らしい音楽になります。
教室で、一緒にその「心地よい音」を探してみませんか?

野口 尚宏