自分の声を探すために“ジャズスタンダード曲”を使う理由

水彩タッチで描かれたマイクとピアノのジャズイラスト

ジャズを学び始めたとき、多くの方が「自分の声を見つけたい」「自分らしく弾いたり歌ったりしたい」と願います。
しかし、最初から完全オリジナルの曲だけを扱ってしまうと、音の流れや和声の動きを掴みにくく、迷子になってしまうことが多いのです。

そこで大切になるのが ジャズスタンダード という “共通の型” です。


スタンダード曲は、長い歴史の中で洗練され、
「歌いやすい」
「弾きやすい」
「アドリブしやすい」

という性質を持っています。

共通素材は“会話”を始める言語のようなもの

私たちは日本語を使うから「自分なりの言い方」や「独特の間(ま)」が生まれます。
音楽も同じで、共通言語があるから個性が滲む のです。

  • 枯葉(Autumn Leaves)
  • いつか王子様が(Someday My Prince Will Come)
  • All of Me
  • Fly Me to the Moon

こうした曲は、メロディの動きやコード進行が理解しやすく、
初心者でも“自分の音”を乗せていけます。


スタンダードは、ただの教材ではありません。
同じ曲でも、年齢・経験・心の状態によって表情が変わります。

誠実に向き合うほど音が変わる

今日の呼吸、心の静けさ、人生の季節……
こうしたものがそのまま音に反映されていきます。

音は、その人が生きてきた時間の深さを映す鏡です。

だからこそ、スタンダードという同じ譜面であっても、
あなたが弾くと“あなたの音”になるのです。


ジャズは即興が魅力ですが、
何もないところから自由に弾ける人はいません。

少ない音からアドリブを始める

スタンダード曲は構造がシンプルなので、

  • 3度と7度だけでラインを作る
  • ペンタトニックで雰囲気を変える
  • 1コーラスだけ音数を減らす

といった練習がやりやすく、
即興の「入口」としても最適です。

間違えても音を止めない勇気
これもスタンダードでの練習だからこそ育ちます。


よく「個性とは探すものですか?」と尋ねられます。

野口の答えはいつも同じです。

個性は“素材との対話”から自然に滲み出る

特別なことをしなくても、
毎日誠実に音と向き合うことで、
呼吸や間、表情のつけ方に“あなたらしさ”が現れます。

スタンダード曲は、この個性が滲む“キャンバス”の役割を果たします。


① 好きなスタンダードを1曲だけ決める

迷ったら 「枯葉」 が最適です。

② メロディを歌ってみる

歌えないメロディは弾けません。
声に出すと自然に表現が生まれます。

③ 一度だけ“音を減らして”弾いてみる

音数を減らすと、
呼吸と間が見えるようになります。

④ レコーディングで“自分の音”を聴く

恥ずかしくても構いません。
録音は最良の先生です。


スタンダード曲は、
誰かのものを模倣するための教材ではありません。

あなた自身の音に出会うための入口 です。

今のあなたの呼吸、生活、心の動きが、
そのまま音になる瞬間があります。

その積み重ねが、
世界にひとつしかない「あなたの声」 を育てます。

ゆっくりで大丈夫です。
静かに、自分のペースで歩んでいきましょう。

野口 尚宏