AIが音を奏でる時代に
AIが作曲し、AIが演奏を再現する時代になりました。
美しい音、正確なリズム。
それらは、もう“人間の専売特許”ではなくなりました。
けれど、その中でふと感じます。
音がどんなに完璧でも、心が震えない瞬間があるのです。
だからこそ、今、私たちはもう一度問われているのです。
「音を奏でる喜び」とは何かを。
人の手で生まれる“呼吸”
人の手で鍵盤を押す。
息を吸い、音を出す。
そこには機械にはない呼吸の揺らぎがあります。
演奏とは、ただの再生ではありません。
その場の空気、共にいる人、
その瞬間の感情が、音を変えていくのです。
だからこそ、即興性は人間の特権です。
間違えてもいい。
そこに“今”しかない音楽が生まれるのです。
AIでは教えられない“楽しむ力”
レッスンでも私は、正確さよりも「楽しむ力」を大切にしています。
AIがどれだけ上手に演奏しても、
その人の音の温度までは再現できません。
生徒さんが音を出した瞬間の笑顔。
その一音が、どれだけ生きた響きを持つか。
それが、音楽教育の本当の価値だと思うのです。
音楽は、まだ人間の中にある
AIがどれほど進化しても、
人が音を出す意味は失われません。
それは“誠実に生きる”ことと同じだからです。
音を奏でる喜び。
その小さな瞬間が、これからの時代の宝になります。
あなたの手が生み出す音が、
きっと、AIには作れない温もりを運んでいくのです。
野口 尚宏

