聴くだけでも、十分に楽しいものです
ジャズを聴くのが好きだ、
という方は多いと思います。
好きな演奏家がいて、
お気に入りの一枚があって、
お店で流れていると
耳がそちらへ向いてしまう。
それは、
まぎれもない音楽の楽しみ方です。
演奏しなければ本当ではない、
などということはありません。
そのうえで、
お伝えしたいことがあります。
演奏する側に回ると、
まったく別の楽しみが
もう一つ増えます。
聴こえてくるものが、変わります
自分で音を出すようになると、
まず起きるのがこれです。
同じ演奏を聴いているのに、
耳に入ってくるものが
増えていきます。
これまではメロディーだけが
聴こえていたのに、
後ろで鳴っている和音が
気になり始める。
ベースがどこを弾いているか。
ドラムがどこで仕掛けているか。
自分でやってみたことのある音は、
他人の演奏の中でも
聴き取れるようになります。
好きだった一枚を
もう一度聴いたときに、
知らなかった音が
聴こえてくることがあります。
聴く楽しみが減るのではなく、
深くなるのです。
すごさの中身が、わかってきます
もう一つ、変わることがあります。
名演と呼ばれる演奏を聴いたとき、
これまでは
「なんとなくすごい」でした。
自分で試してみると、
そのすごさの中身が
具体的にわかります。
この速さでこの音を選べるのか。
ここで、よく待てるものだ。
この音を、こんなに小さな音量で
出せるのか。
難しさを知っている人にしか
見えない景色があります。
スポーツを自分でやったことがある人が、
試合の見え方が変わると
言うのと同じです。
受け取る側から、決める側へ
そして、いちばん大きな違いは
ここだと思います。
聴いているとき、
音楽はもう決まっています。
どれだけ好きな演奏でも、
次に何が来るかは
変えられません。
演奏する側に回ると、
そこが逆になります。
次にどの音を出すか。
どこで止まるか。
どんな強さで置くか。
全部、自分が決めます。
その一音で、
その先の展開が変わっていく。
この、自分が音楽を動かしている感覚は、
聴いているだけでは
味わえないものです。
身体が関わってきます
もう一つ、忘れられがちなことがあります。
演奏には、身体が関わります。
鍵盤を押した指の感触。
手のひらに返ってくる響き。
歌えば、
身体そのものが震えます。
耳だけでなく、
身体全体で音を受け取っている。
だから、記憶の残り方が違います。
何百回聴いた曲より、
自分で一度弾いた曲のほうが
身体に残っている。
そういうことが起こります。
うまくなくても、その楽しみは味わえます
ここで、
大事なことを書いておきます。
今お話ししてきた楽しみは、
上手になってから
手に入るものではありません。
最初の一音から、
もう始まっています。
一つの和音を鳴らして、
その響きに
「おっ!」と思う。
それだけで、
聴いているときとは違う何かが
起きています。
技術が上がれば
できることは増えますが、
楽しさの入り口は
いちばん最初にあります。
聴くのをやめる必要はありません
念のために書いておきます。
演奏を始めたからといって、
音の美しさを聴く楽しみが
減るわけではありません。
そして、二つは
互いに影響し合います。
聴いて覚えたものが
自分の演奏に出てくる。
自分で試したことが
聴くときの解像度を上げる。
両方あるほうが、
音楽との時間は豊かになります。
一音、出してみませんか
とはいえ、
長く聴いてきた方ほど、
自分で音を出すことに
ためらいがあると思います。
耳が育っている分、
自分の音との差が
はっきり聴こえてしまうからです。
ですが、
その差が分かること自体が、
すでに大きな財産です。
「今の音、いいですね」
そう一緒に聴いてくれる人がいれば、
その耳は演奏する時も
働き始めます。
サヴァサヴァに来られる方の中にも、
長年聴くだけだった方が
おられます。
まずは一音、
出しにいらしてください。
あなたの大好きな音楽をより深めるために。
Music Space サヴァサヴァ
野口 尚宏

