AIの時代に、人と音を出すということ

木の温もりのある部屋でアップライトピアノに向かい、今出した音が消えていくのを目を閉じて聴いている男性の水彩アニメ風イラスト。午後の光が床に広がり、下部中央に「その場で消えていく音」の白いテキスト。

AIが曲を作る時代に、楽器を始める意味

AIに頼めば、
曲ができる時代になりました。

それを聞いて、
今から楽器を始めても
意味があるのだろうかと
思われた方が
おられるかもしれません。

その疑問は、
とても自然なものだと思います。

そのうえで、
私は意味があると思っています。

その理由を、
書いておきたいと思います。

私自身、AIを使っています

先にお伝えしておきます。
私はAIを避けていません。

文章を整えるときにも使いますし、
自分の即興演奏を
教材の形にできないかと
考えているところです。

便利な道具です。
使わない理由がありません。

ですので、
これはAIがよくないという
話ではありません。

AIがあっても
なくならないものがある、
という話です。

その場で鳴って、消えていく音があります

セッションで出した音は、
録音していなければ
その場で消えていきます。

もう一度同じものを、
と言われてもできません。

その日の、
その時間にしか
鳴らなかった音です。

それを聴いていた人が
何人かいて、
その人たちの中にだけ残る。

データとして
どこにも保存されていないものが、
確かにあったことになる。

そういう時間です。

音楽は、聴く人がいて成り立ちます

音が優れているから
音楽が素晴らしいのだとは、
思っていません。

誰かの心が動いたときに、
初めて音楽になる。

弾く人と聴く人がいて、
その間で何かが起きる。

その体験の部分は、
誰かが代わりに
やってくれるものではありません。

ご自身の指で音を出して、
その響きを耳で受け取る。

そこは、
ご自身の身体でしか
できないところです。

うまくいかない時間も、体験のうちです

思った音が出ない日があります。
指が動かない日もあります。

そういう時間は、
効率という言葉からは
いちばん遠いところにあります。

ただ、
その日があったからこそ、
ある日ふっと出た一音が
忘れられなくなります。

すぐに結果が出ることばかりが
増えていく中で、
時間のかかるものに
触れていること自体が、
だんだん貴重に
なってきているように思います。

画面を見ない時間になります

レッスンの間は、
スマートフォンを見ません。

一時間、
音のことだけを考えている。

それだけのことですが、
戻ったときに
頭が軽くなっていることがあります。

仕事でも家のことでもない時間が、
週に一度か、
月に何度かある。

そういう場所として
使っていただいている方も
おられます。

ここでしか鳴らない音を、一緒に

AIができることは、
これからも増えていくと思います。

そのぶん、
その場に居合わせないと
受け取れないものの値打ちが、
上がっていくのではないでしょうか。

同じ部屋で、
同じ空気を震わせて、
その場限りの音を出す。
そういう時間です。

とはいえ、
その場に入っていくことには
勇気がいると思います。

「その音でいいんですよ」
そう受け止めてくれる人がいるだけで、
音は出しやすくなります。

音楽の経験がなくても構いません。
うまく弾ける必要もありません。
その場にいていただければ、
それで成り立ちます。

一度、
音を出しにいらしてください。

Music Space サヴァサヴァ
   野口 尚宏

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