気分の変化が、アドリブを作る。乗らない日の音楽。

窓の外を雲が流れ、部屋の光が青みから暖色へと移り変わる中、女性が静かな表情でピアノを弾く水彩アニメ風イラスト。手から伸びる黄金の帯も重く冷たい色から軽く暖かい色へと変化していく。下部中央に「その日の気分が、その日の音楽になる。」の白いテキスト。

今日は、どうにも気分が乗らない

ピアノの前に座ったものの、
どうにも気分が乗らない。

指も重いし、
頭も働かない。

「こんな状態で練習しても、
意味がないのではないか」

そう思って、
蓋を閉じてしまう日。

その気持ちは、
とてもよくわかります。

ただ、アドリブという視点から見ると、
気分にはまったく違う
意味が出てきます。

練習が気分に左右されるのは、事実です

まず、正直に認めます。

練習の質は、
その日の気分にかなり左右されます。

集中できる日もあれば、
まったく入ってこない日もある。

同じ内容をやっても、
身につき方が違います。

これは、気合いで
どうにかなるものではありません。

人間である以上、
当たり前のことです。

でも、アドリブでは気分は邪魔ではない

ところが、アドリブの場面では、
話がまるで変わります。

そこでは、気分は
取り除くべき雑音ではありません。

むしろ、材料です。

アドリブとは、
その瞬間の自分が
音になったものです。

気分が沈んでいるなら、
沈んだ音楽が生まれる。

落ち着かないなら、
落ち着かない音楽が生まれる。

それは失敗ではなく、
その日にしか出せない
音楽です。

昨日の自分と、今日の自分は違う

もう少し踏み込みます。

私たちは、自分の考えや感じ方が
ずっと同じだと
思い込んでいます。

でも、実際は違います。

先週きれいだと思った響きが、
今日はそう感じられない。

ずっと苦手だったフレーズが、
ある日ふと
心地よく感じられる。

固まっていたはずの感覚は、
時間が経てば
必ず動いています。

その変化に気づけるかどうか。
これが、アドリブにとって
いちばん大事なことです。

変化をとらえることが、アドリブの核心

もし、自分がまったく
変化しない人間だったら、
アドリブは成立しません。

毎回、同じ発想しか
出てこないからです。

アドリブが毎回同じになってしまう方は、
手が足りないのではなく、
自分の中の変化に
気づけていないことが多いのです。

今日は、少しゆっくりしたい。
今日は、荒っぽく出したい。
今日は、音を減らしたい。

そういう小さな傾きを
拾えるようになると、
アドリブは自然と
毎回違うものになります。

変化は、外から探すものではなく、
自分の中にすでに
起きているものです。

乗らない日には、乗らない日の音楽がある

だから、気分が乗らない日には、
ひとつ試してほしいことがあります。

いつもの練習を
無理にやろうとしないでください。

その代わり、
今の気分のまま
音を出してみる。

重いなら、重いまま。
ぼんやりしているなら、
ぼんやりしたまま。

速く弾こうとしなくていい。
まとめようとしなくていい。

そうやって出てきた音は、
調子のいい日には
絶対に出てこないものです。

気分の悪い日は、
アドリブにとっては
珍しい素材が手に入る日でもあります。

もちろん、休むという選択も正しい

ここは、
誤解のないように書きます。

「気分を素材にできるのだから、
どんな日でも弾くべきだ」
と言いたいのではありません。

本当に疲れている日は、
休んでください。

休むことも、
音楽と長く付き合うために
必要なことです。

お伝えしたいのは、
選択肢が二つではなく
三つあるということです。

無理にいつも通りやるか、
何もしないか。

その間に、
「今日の状態のまま音を出す」
という道があります。

基礎練習は、変化に応じるための瞬発力

そしてここで、
基礎練習の意味が
変わってきます。

変化に気づけたとしても、
体がついてこなければ
音にはなりません。

「今、少し止まりたい」と感じても、
指が止まれなければ
意味がない。

「ここは強く出したい」と思っても、
体が反応しなければ
そのまま流れていきます。

感じた瞬間に、
音にできる状態。

それを作るのが、基礎練習です。

基礎練習は、
決まったことを正確にやる力を
つけるためのものだと
思われがちです。

でも本当は逆で、
決まっていないことに
即座に応じるための力です。

だから、地味な反復が
自由な即興につながります。

その日のあなたの音を、一緒に

とはいえ、
一人で気分のまま弾いていると、
不安になると思います。

これは表現なのか、
ただ調子が悪いだけなのか。
自分では判断できません。

「今日のその重さ、
すごく良かったですよ」
そう受け止めてもらえて初めて、
気分の変化は
音楽の材料になります。

サヴァサヴァでは、
その日の調子を整えてから
始めるのではなく、
その日の状態ごと
音にしていきます。

乗らない日の音楽も、
ここでは立派な音楽です。

Music Space サヴァサヴァ
  野口 尚宏

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