「いい音を目指しましょう」と言われても
レッスンでも、教則本でも、
よくこう言われます。
「いい音を目指しましょう」
「理想の音をイメージして」
でも、始めたばかりの頃は、
正直こう思うはずです。
その「いい音」が、
どんな音なのか分からない。
これは、当たり前のことです。
理想の音というのは、
最初から自分の中にあるものではなく、
あとから育てていくものだからです。
今日は、その育て方の話をします。
理想の音は、聴いた分だけしか育たない
まず、はっきりお伝えします。
理想の音は、
練習しても育ちません。
聴くことでしか育ちません。
自分の中に貯えた音の記憶が、
そのまま理想の材料になります。
知らない音は、
目指しようがありません。
だから、練習量が同じでも、
聴いてきた量が違えば、
伸び方はまったく変わります。
聴くことは、
練習の準備ではありません。
練習と同じくらい大切な、
もう一つの練習です。
広く聴く前に、まず一人を深く聴く
では、何を聴けばいいのか。
いろいろな音楽を幅広く聴くことは、
とても大切です。
ただ、始めたばかりの方には、
その前にやってほしいことがあります。
一人の演奏家を決めて、
その人をしばらく
集中して聴くことです。
理由は単純です。
広く浅く聴いていると、
音が全部混ざってしまって、
輪郭のある像が
できあがらないのです。
でも一人を深く聴くと、
「この人はこういう音を出す」という
はっきりした基準が
自分の中に立ちます。
基準が一つできると、
他の演奏を聴いたときに
「あの人とは違うな」と
比べられるようになります。
広く聴くことが生きてくるのは、
その基準ができてからです。
誰を選べばいいのか
誰を選ぶかは、
難しく考えなくて大丈夫です。
名盤の一覧を調べる必要も、
歴史的に重要な人を
選ぶ必要もありません。
聴いていて、
なんとなく気持ちがいい人。
もう一度聴きたくなる人。
その感覚だけで選んでください。
「なんかいい」という感覚は、
あいまいなようでいて、
実はとても正確です。
あなたがその音に惹かれるのには、
必ず理由があります。
今はまだ
言葉にできないだけです。
聴き込んでいくうちに、
その理由が
だんだん見えてきます。
同じ曲を、三人の演奏で聴いてみる
ここで、初心者の方に
特におすすめの聴き方を
一つご紹介します。
同じ一曲を、
違う演奏家で聴き比べてみてください。
三人ほどで十分です。
曲もメロディも同じなのに、
驚くほど違って聴こえるはずです。
速い人、遅い人。
音が硬い人、柔らかい人。
たっぷり間を取る人、
畳みかける人。
一枚だけ聴いていると
気づけない違いが、
並べた瞬間に浮かび上がります。
そして、その中に必ず
「自分はこっちが好きだ」
という反応が起きます。
その反応こそが、
あなたの理想の音の芽です。
曲を聴くのではなく、音を聴く
もう一つ、聴き方のコツがあります。
曲全体をぼんやり流すのではなく、
短い一箇所だけを
繰り返し聴くことです。
好きなフレーズを見つけたら、
そこだけ何度も戻して聴く。
すると、最初は
「かっこいい」としか
思えなかったものが、
だんだん細かく見えてきます。
音の出だしがやわらかい。
語尾がすっと消えていく。
思ったより遅れて入っている。
この解像度が上がっていくことが、
理想の音が
育っていくということです。
ぼんやりした憧れが、
少しずつ
具体的な目標に変わっていきます。
真似ることから始めていい
そして、聴いたら
真似してみてください。
口ずさんでみる。
楽器で探ってみる。
真似ることに、
後ろめたさを感じる必要は
まったくありません。
耳で聴いて真似ることは、
ジャズが生まれたときからの
もっとも正統な学び方です。
そして、面白いことに、
真似は完全には成功しません。
どれだけ寄せても、
必ずどこかがずれます。
その、真似きれずに
残ってしまった部分。
それが、あなたの音です。
理想の音は借り物から始まりますが、
追いかけているうちに、
自分の音が姿を現します。
理想は、変わっていっていい
最後に、安心してほしいことを
一つ。
理想の音は、
一度決めたら終わりではありません。
数年経つと、
好きな音が変わっていることに
気づくはずです。
それは、浮気でも、
ぶれでもありません。
あなたの耳が育った証拠です。
理想が更新されるたびに、
目指す先も新しくなります。
だから、最初の一人は
気軽に選んでいいのです。
あなたの理想の音を、一緒に探しませんか
とはいえ、聴き始めたばかりの頃は、
心細いものです。
自分が何に惹かれているのか、
自分では言葉にできません。
その好みが
頼りになるものなのかも、
確かめようがありません。
「今いいと言ったのは、
この音のことですね」
そう言葉にしてくれる人がいると、
ぼんやりした好みが
目指せる形に変わっていきます。
サヴァサヴァでは、
こちらの理想を押しつけるのではなく、
あなたが何を美しいと感じるのかを
一緒に探していきます。
あなただけの理想の音を、
ここから育てていきませんか。
Music Space サヴァサヴァ
野口 尚宏

