コード理論が、難しく感じるとき
ジャズを学び始めると、
すぐに理論の話が出てきます。
コードの構成音。
スケール。
テンション。
ツーファイブ。
覚えることが次々に出てきて、
「自分にはできないかもしれない」と
感じてしまう方は多いと思います。
アドリブをしようとしても、
頭の中で理論を確認しているうちに、
音楽は先に行ってしまう。
そんな行き詰まりを感じている方に、
今日は少し思い切った提案を
させてください。
一度、全部やめてみませんか。
完全即興、という時間を作る
提案するのは、完全即興です。
楽譜を閉じる。
コード進行を決めない。
キーも決めない。
曲も決めない。
何も決めずに、
ただ鍵盤の前に座って、
音を出し始めるのです。
上手い下手も考えません。
合っているかどうかも考えません。
途中で止まっても構いません。
同じ音をずっと鳴らしていても
構いません。
時間は五分で十分です。
誰にも聴かせず、
録音もせず、
評価が一切存在しない状態で
やってみてください。
何も考えていないのに、音楽になる
実際にやってみると、
多くの方が驚かれます。
何も考えていないのに、
なんとなく音楽らしいものが
出てくるのです。
これには理由があります。
私たちは、生まれてからずっと
音楽を聴いてきました。
テレビから、店内から、
誰かが口ずさむ歌から。
意識していなくても、
膨大な量の音楽が
体に蓄積されています。
その記憶が、
指を動かしてくれるのです。
頭で組み立てなくても、
すでにあなたの中に
音楽の材料は入っている。
完全即興は、
その蓄積を引き出す作業です。
そもそも、音は十二個しかない
ここで、ピアノという楽器の
ありがたさに触れておきます。
鍵盤を見れば、
使える音が十二個しかないことが
目で見てわかります。
この「見えている」という感覚は、
意外と大きな安心につながります。
どこを押しても、
その十二個の中のどれかです。
未知の恐ろしい音は
存在しません。
間違えたと思った音も、
結局は同じ十二個の中の一つ。
この事実を体で理解すると、
鍵盤の前に座る緊張が
ずいぶん和らぎます。
枠から離れると、枠が怖くなくなる
そして、ここからが
一番お伝えしたいことです。
完全即興をやったあとで
既成の曲に戻ると、
不思議な変化が起きています。
コード進行が、
以前ほど難解に見えないのです。
アドリブをするときも、
間違いへの恐怖が
薄くなっています。
広い野原を自由に歩き回ったあとで
地図を渡されると、
地図はありがたいものに見えます。
でも、野原を知らないまま
先に地図だけを渡されると、
その線から外れることが
怖くなってしまう。
理論やコード進行は、
あなたを縛る檻ではありません。
広い音の世界の中で、
「このあたりを歩くと
心地よいですよ」と
教えてくれる道しるべです。
理論を否定しているのではありません
誤解のないように
書いておきます。
理論は必要です。
コードやキーの理解があるほど、
表現できることは増えます。
これは、順番の問題です。
先に自由を体験してから理論を学ぶと、
理論は
「使える道具」になります。
でも、自由を知らないまま
理論から入ると、
理論は
「守るべき規則」になってしまう。
同じ知識でも、
受け取り方がまるで変わります。
だから、理論を学んでいる途中の方こそ、
ときどき完全即興の時間を
挟んでみてほしいのです。
間違えられる場所を、持っておく
完全即興の本当の価値は、
音楽が上手くなることではないかもしれません。
正解のない時間を過ごす。
評価されない時間を過ごす。
誰にも合わせなくていい時間を過ごす。
大人になると、
そういう時間はほとんど
なくなってしまいます。
だからこそ、
五分でいいので
そういう時間を持つこと自体に
意味があります。
その時間の中でこそ、
あなただけの音の癖や好みが
顔を出してきます。
その自由を、一緒に確かめませんか
とはいえ、正直なところ、
一人で完全即興をやるのは
けっこう心細いものです。
「これでいいのだろうか」
「ただ適当に弾いているだけでは」
という声が、
すぐに頭の中で鳴り始めます。
「今の流れ、面白かったですよ」
「そこ、あなたらしい音でした」
そう受け止めてくれる人が
そばにいるだけで、
自由は本当の自由になります。
サヴァサヴァでは、
理論を教える時間と同じくらい、
枠を外して音を出す時間を
大切にしています。
音楽は、思っているよりずっと
自由でいいものです。
そのことを、
ここで体感してみませんか。
Music Space サヴァサヴァ
野口 尚宏

