ニーチェとジャズが教える「新しい目」|独創性は新しいものを探すことではない

暖かな光の部屋で、女性がピアノの前に座り、見慣れたはずの鍵盤を初めて見るような驚きの表情で見つめる水彩アニメ風イラスト。周囲の日常的なものから淡い光が放たれ、下部中央に「新しいものより、新しい目を。」の白いテキスト。

「新しいもの」を追いかけて、疲れていませんか

音楽の世界は、常に新しいものを求めています。

新しいテクニック。
新しいスタイル。
新しい理論。
新しいアーティスト。

「これを知らないと遅れる」
「あの人はもうあれができる」
そんな声が、どこかからずっと聴こえてくる。

長く音楽を続けてきた方が、
あるとき静かにこう感じることがあります。

「新しいものを追いかけることに、
少し疲れてきた」と。

その感覚は、正直なものだと思います。
そして、その疲れの先に、
音楽の本質に近いものがあるかもしれません。

ニーチェが言った「真の独創性」とは何か

19世紀のドイツの哲学者、フリードリヒ・ニーチェは、
独創性についてこんなことを言っています。

「真の独創性とは、
単に新しいものを観察することではない。
古い、昔から知られていたもの、
あるいは誰の目にもふれていたが
見過ごされていたものを、
新しいものとして観察できることである」

この言葉を読んだとき、
音楽のことが頭に浮かびました。

独創性とは、
誰も知らない新しいものを生み出すことではない。
すでにそこにあるものを、
誰も見ていなかった角度から見ることができる力だ、
とニーチェは言っているのです。

ジャズの巨人たちは、何を「新しく見た」のか

ジャズの歴史を振り返ると、
ニーチェの言葉がそのまま当てはまります。

マイルス・デイヴィスは、
既存のコード進行を「空白」として見直した。
音を足すのではなく、
音を削ることの美しさを発見した。

ビル・エヴァンスは、
クラシックの和声の中に
ジャズが聴こえた。
すでにそこにあったハーモニーを、
誰も見ていなかった方法でジャズに持ち込んだ。

セロニアス・モンクは、
「間違い」に見えていた音の中に、
まだ誰も聴いていなかった美しさを見つけた。

彼らは、全員がゼロから何かを生み出したのではありません。
すでにそこにあったものを、
誰も見ていなかった目で見たのです。

見慣れたものの中に、まだ見えていないものがある

あなたが今、手元に持っている音楽。
何度も弾いてきた曲。
何年も使ってきたコード。
当たり前に知っているスタンダードナンバー。

それらの中に、
まだあなたが見ていないものが
眠っているかもしれません。

「Autumn Leaves」を百回弾いてきたとしても、
百一回目に初めて気づくことがある。

「All The Things You Are」を
何年も演奏してきたとしても、
今日の自分の耳には
昨日とは違う何かが聴こえることがある。

それが、ニーチェの言う
「見過ごされていたものを新しく見る力」です。

「知っている」ことと「見えている」ことは違う

「これは知っている」と思ったとき、
人はそれ以上見るのをやめてしまいます。

知っているから、流す。
知っているから、次へ進む。
知っているから、深く見ない。

でも、「知っている」ことと
「見えている」ことは、
まったく別のことです。

長年ジャズを演奏してきた人が、
あるとき一つのコードの響きに
立ち止まることがあります。

「このコードはずっと知っていた。
でも、今日初めてこのコードが
本当に聴こえた気がする」

その瞬間こそが、
ニーチェの言う独創性の入り口です。

新しいものを探すより、深く見ることの方が難しい

実は、新しいものを探すことより、
すでにあるものを深く見ることの方が、
はるかに難しいことです。

新しいものを探すのは、
外へ外へと広がっていく動きです。
次から次へと手を伸ばし続ける動きです。

でも、すでにあるものを深く見るのは、
内へ内へと掘り下げていく動きです。
立ち止まって、もう一度見つめ直す動きです。

この「立ち止まって掘り下げる」という動きは、
「新しいものを追いかけ続ける」という動きより、
ずっと多くのものを要求します。

集中力、忍耐、そして謙虚さ。
「まだ見えていないものがあるかもしれない」
という謙虚さが、
深く見る力を育てます。

「新しいもの」ではなく「新しい目」を持つ

音楽で長く行き詰まりを感じている方に、
一つだけお伝えしたいことがあります。

求めるべきは、
新しい音楽ではなく、
新しい目かもしれません。

すでに手の中にある曲を、
もう一度別の角度から見てみる。
もう知っているはずのコードを、
初めて聴くように聴いてみる。
何年も弾いてきたフレーズを、
今日の自分の感情で弾いてみる。

その小さな「新しい目」が、
あなたの音楽を変えていきます。

ニーチェが言ったように、
真の独創性はそこにあります。

「新しい目」を育てる場所として

新しいものを追いかけることに疲れたとき、
立ち止まって手元にある音楽を
深く見つめ直す時間が必要です。

でも一人でそれをしようとすると、
「本当にこれでいいのか」という
不安が出てきます。

「あなたが見過ごしていたのはここです」
「そのコードには、まだこういう聴こえ方があります」
そう伝えてくれる人がいると、
「新しい目」は育ちやすくなります。

サヴァサヴァでは、
新しいことを教えるより、
すでにあなたの中にあるものを
新しく見つけていくことを
大切にしています。

新しいものを追いかけることに疲れたとき、
ぜひ一度スタジオへ来てみてください。

Music Space サヴァサヴァ
   野口 尚宏

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