音楽を「持つ」時代から、「分かち合う」時代へ
音楽は、
これからますます「所有するもの」ではなく、
「シェアするもの」になっていくのではないでしょうか。
かつては、
レコードやCDを買って、
自分の棚に並べることが、
音楽との大きな関わり方でした。
今は、サブスクリプションで、
世界中の音楽をすぐに聴くことができます。
音楽を物として持つ感覚は、
以前よりも少し薄くなったかもしれません。
でも、音楽がシェアされるということは、
ただCDから配信へ変わった、
というだけではないように思います。
これからは、
聴く音楽だけでなく、
技術も、感性も、アイデアも、
お互いに分かち合う時代になっていくのではないでしょうか。
一人で完成させて、
一人で抱え込む音楽ではなく、
人と関わりながら育っていく音楽。
そこに、これからの音楽の豊かさがあるように思います。
技術は、隠すものではなく、分かち合うものになる
音楽の技術は、
長い時間をかけて身につけるものです。
コードの理解。
リズムの感じ方。
声の使い方。
伴奏の組み立て方。
アドリブの考え方。
それらは、
簡単に手に入るものではありません。
だからこそ、
技術を自分だけのものとして抱え込みたくなることもあるかもしれません。
でも、本来の音楽の技術は、
人を分けるためのものではなく、
人と音楽を作るためのものではないでしょうか。
自分が知っていることを、
誰かの音楽に役立てる。
誰かの工夫から、
自分の演奏が広がる。
人と合わせる中で、
互いの足りないところが見え、
互いの良さも見えてくる。
そういう循環の中で、
技術はただの能力ではなく、
創造性を高め合うための共有財産になっていくのだと思います。
一人で完結する音楽には、限界がある
もちろん、一人で音楽に向き合う時間は大切です。
一人で練習する。
一人で考える。
一人で聴き込む。
一人で曲を作る。
その時間があるから、
自分の音は育っていきます。
ただ、音楽は一人の中だけで完結しすぎると、
少し閉じてしまうことがあります。
自分の好きな響きだけを選ぶ。
自分の得意なリズムだけで進む。
自分の考えた正解だけを守る。
それは安心できる一方で、
新しい発見が生まれにくくなることもあります。
誰かと音を合わせると、
自分では選ばなかった音に出会います。
自分では思いつかなかった間が生まれます。
相手のリズムによって、
自分の音の置き方が変わります。
そのとき、音楽は自分の内側だけではなく、
人との関係の中で動き始めます。
セッションは、音楽をシェアする実践の場
音楽をシェアする力を育てるうえで、
セッションはとても大切な場です。
セッションでは、
ただ自分の演奏を見せるだけではありません。
相手の音を聴き、
その場で反応し、
自分の音を返していきます。
誰かがテーマを弾く。
誰かが伴奏で支える。
誰かがリズムの流れを作る。
誰かが短いフレーズで応える。
そこでは、音楽は一人の所有物ではありません。
その場にいる人たちが、
少しずつ持ち寄り、
少しずつ変化させ、
一緒に作っていくものです。
セッションの中では、
自分の技術も、
相手の技術も、
その場の音楽のために使われます。
それが、音楽をシェアするということの、
とても具体的な姿なのだと思います。
即興演奏は、創造性を交換する力を育てる
即興演奏では、
あらかじめすべてが決まっているわけではありません。
決められたコード進行や曲の構成があっても、
その中で何を弾くのか、
どう歌うのか、
どこで反応するのかは、
その場で選んでいきます。
そのためには、
自分の中にあるものを出す力が必要です。
でも、それだけでは足りません。
相手が何を出してきたのかを聴く力。
その音に対して、
自分がどう返すのかを選ぶ力。
今は前に出るのか、
支えるのか、
待つのかを判断する力。
それらが必要になります。
即興演奏は、
自分だけが自由になるためのものではありません。
人と創造性を交換しながら、
その場で新しい音楽を作るための力なのだと思います。
技術をシェアすると、創造性は小さくならない
自分の知っていることを人に伝えると、
自分の価値が減るように感じることがあるかもしれません。
自分だけが知っているフレーズ。
自分だけが使えるコードの工夫。
自分だけが見つけた表現。
それを誰かに伝えると、
自分の独自性が薄まるように感じることもあるでしょう。
でも、音楽では、
技術をシェアすることで、
かえって創造性が広がることがあります。
同じコードを学んでも、
人によって響かせ方は違います。
同じフレーズを覚えても、
歌い方やタイミングは違います。
同じリズムを使っても、
その人の身体の揺れ方は違います。
技術は、共有された瞬間に、
全員が同じ音になるわけではありません。
むしろ、それぞれの感性を通ることで、
違う音楽へ変わっていきます。
だから、技術をシェアすることは、
音楽を均一にすることではありません。
お互いの創造性を高めるための、
大切な循環なのだと思います。
これから必要になるのは、音でコミュニケーションする力
音楽をシェアする時代に必要なのは、
ただ上手に演奏する力だけではないように思います。
もちろん、技術は大切です。
基礎も必要です。
理論を知ることも、
音楽を深めるうえで大きな助けになります。
でも、それらを人と共有できなければ、
音楽は一人の中で止まってしまいます。
相手の音を聴く。
相手の意図を感じる。
自分の音で返す。
必要なときには支える。
必要なときには前に出る。
そうした音でのコミュニケーションが、
これからますます大切になるのではないでしょうか。
言葉で説明する前に、
音で感じ合う。
正解を押しつけるのではなく、
その場で一緒に探していく。
その力を育てるうえで、
ジャズのセッションや即興演奏は、
とてもよい学びになると思います。
ジャズは、シェアする音楽に向いている
ジャズには、
音楽をシェアするための仕組みがたくさん含まれています。
テーマを共有する。
コード進行を共有する。
リズムの流れを共有する。
そのうえで、
一人ひとりが自分の音を出していく。
同じ曲を演奏していても、
毎回まったく同じにはなりません。
その日集まった人。
その日の空気。
誰かが出した一音。
ほんの少しのリズムの揺れ。
それらによって、
音楽は変わっていきます。
ジャズは、
完成品を所有する音楽というより、
その場で音を分かち合う音楽です。
だからこそ、
これからの「シェアする音楽」の時代に、
ジャズの考え方はとても大切になっていくのではないでしょうか。
音楽を分かち合うと、人の創造性も育っていく
音楽を人と分かち合うと、
自分一人では見えなかったものが見えてきます。
自分のフレーズが、
相手の伴奏によって違って聞こえる。
相手の歌によって、
自分のピアノの音が変わる。
誰かのリズムに触れて、
自分の時間の感じ方が広がる。
そういう経験の中で、
創造性は一人の内側だけではなく、
人との関係の中で育っていきます。
音楽をシェアするということは、
単に同じ音源を聴くことではありません。
お互いの音に触れ、
お互いの技術に触れ、
お互いの感性に触れることです。
その中で、
自分の音楽も、
相手の音楽も、
少しずつ変わっていきます。
そこに、音楽を分かち合うことの本当の豊かさがあるように思います。
所有ではなく、共有へ。競争ではなく、創造へ。
これからの音楽は、
誰かが持っているものを、
ただ受け取るだけではなくなっていくのかもしれません。
聴く人も、
演奏する人も、
学ぶ人も、
教える人も。
それぞれが音楽に関わり、
それぞれの形で創造に参加していく。
そのときに必要なのは、
自分だけの正解を守ることではなく、
人と音楽を分かち合う力です。
技術をシェアする。
アイデアをシェアする。
音をシェアする。
そして、その中で、
お互いの創造性を高めていく。
ジャズのセッションや即興演奏には、
そのための感覚が詰まっています。
もし、音楽を自分だけで抱えるものではなく、
人と分かち合いながら育てるものとして味わってみたいなら、
レッスンやセッションの中で、
その感覚を一緒に確かめてみませんか。
所有ではなく、共有へ。
競争ではなく、創造へ。
音で人とつながりながら、
これからの音楽を、
一緒に育てていけたらと思います。
Music Space サヴァサヴァ
野口 尚宏

