言えなかった気持ちを、そっと音に置く

暖かな光の部屋で、大人の女性が一台のアップライトピアノの前に静かに座り、言葉にできなかった気持ちを一音に置くように鍵盤へ手を添えている水彩アニメ風イラスト。胸元と指先から黄金の光が鍵盤へ流れ、淡い音符や糸のような光が漂い、下部中央に「言えなかった気持ちを、そっと音に置く。」という白い文字が入っている。

言葉にしようとすると、こぼれてしまう気持ち

本当は何かを感じているのに、
うまく言葉にできないことはないでしょうか。

悲しいと言うには、少し違う。
悔しいと言うには、強すぎる。
嬉しいと言うには、どこか静かすぎる。

誰かに話そうとしても、
言葉にした瞬間に、
本当に感じていたものから少し離れてしまう。

そんな気持ちが、
心の奥に残ることがあるかもしれません。

でも、言葉にならなかったからといって、
その気持ちがなかったことになるわけではありません。

むしろ、
言葉にならないまま残っているものほど、
その人の中で静かに深く鳴っていることがあります。

音楽は、
そういう気持ちの置き場所になることがあります。

説明できないまま、音になるもの

音楽の不思議なところは、
説明できないものを、
説明しないまま差し出せるところかもしれません。

なぜその音を少し長く伸ばしたのか。
なぜそのフレーズで、少しだけ力が抜けたのか。
なぜ歌い出す前に、ほんの少し間が空いたのか。

あとから理由を聞かれても、
うまく答えられないことがあります。

でも、聴いている人には、
何かが伝わっている。

それは、正しい説明ではなく、
その人の中にあった気配のようなものが、
音の中ににじんだからではないでしょうか。

言葉にすると形が決まりすぎてしまう気持ちも、
音なら、少し曖昧なまま置いておくことができます。

その曖昧さの中に、
本当の気持ちが残っていることもあります。

言えなかった気持ちは、消えたわけではない

言えなかったこと。
言わなかったこと。
言うタイミングを失ってしまったこと。

そういうものは、
時間が経てば消えるように見えるかもしれません。

でも本当は、
形を変えて残っていることがあります。

ある曲を聴いたときに、
急に昔の自分に戻るような感覚になる。

何気ないコードの響きに、
説明できない懐かしさを感じる。

歌詞の一言が、
自分でも忘れていた気持ちに触れる。

そんな経験はないでしょうか。

音楽は、
心の奥にしまっていたものを、
無理に引きずり出すものではありません。

ただ、そっと光を当てるように、
そこにあったものを思い出させてくれることがあります。

そっと置く、という表現のしかた

音楽で気持ちを表現するというと、
強く訴えることを思い浮かべる方もいるかもしれません。

大きな声で歌う。
感情を込めて弾く。
思いを前面に出す。

もちろん、そういう表現もあります。

でも、すべての気持ちが、
強く外へ出たがっているわけではないのではないでしょうか。

中には、
そっと置いておきたい気持ちもあります。

誰かにわかってほしいけれど、
押しつけたくはない。

伝えたいけれど、
大きな声にはしたくない。

そんな気持ちは、
音の中にそっと置くくらいが、
ちょうどいいこともあります。

一音を少し丁寧に弾く。
歌詞の終わりを、少しだけやわらかくする。
すぐに次の音へ行かず、余韻を待つ。

それだけで、
言えなかった気持ちが、
静かにそこに置かれることがあります。

技術は、気持ちをこぼさないための器になる

気持ちがあれば音楽になる。
そう言いたくなることもあります。

けれど、気持ちだけでは、
うまく音にならないこともあります。

本当はやさしく置きたいのに、
指が強く入ってしまう。

本当は静かに歌いたいのに、
声が不安定になってしまう。

本当は間を大切にしたいのに、
怖くなってすぐ次の音へ行ってしまう。

そういうこともあるのではないでしょうか。

だからこそ、基礎や理論は、
気持ちを閉じ込めるためのものではありません。

言えなかった気持ちを、
こぼさず音にするための器になります。

論理という地図があることで、
心の中にあるものを、
少しずつ音の形にしていけることがあります。

誰かが聴いてくれることで、気持ちは居場所を持つ

自分の中にある気持ちを音にしても、
それを誰にも聴いてもらえないままだと、
少し寂しく感じることがあるかもしれません。

音楽には、
ひとりで自分と向き合う時間があります。

でも同時に、
誰かに受け取ってもらうことで、
初めて落ち着く気持ちもあります。

うまく説明できなかったけれど、
音にしたら、誰かが静かにうなずいてくれた。

大げさな言葉はなかったけれど、
「今の音、よかったですね」と受け止めてもらえた。

それだけで、
長いあいだ心の中に置き場のなかった気持ちが、
少し居場所を持つことがあります。

音楽は、
気持ちを説明しきるためのものではありません。

説明しきれないまま、
誰かとそっと分かち合うためのものでもあります。

言葉にならないものを、音として見つめてみる

もし、心の中に、
まだ言葉にできない気持ちが残っているなら。

それを無理に説明しようとしなくても、
いいのかもしれません。

まずは、
一つの音として置いてみる。

一つのフレーズとして、
そっと外へ出してみる。

誰かに評価されるためではなく、
自分の中にあったものを、
少しだけ見つめるために。

そういう音楽の時間があっても、
いいのではないでしょうか。

言えなかった気持ちを、
無理に言葉に変えなくてもいい。

音の中に、
そっと置いてみることから始まる表現もあります。

その音を一人で抱えきれないときは、
一緒に耳を澄ませながら、
少しずつ形を見つけていける場所があると、
音楽はもう少しやさしく始められるかもしれません。

言葉にできなかった気持ちも、
音にしてみると、少し違った形で見えてくることがあります。
うまく説明できなくても大丈夫です。
まずは一音から、
サヴァサヴァで一緒に音を鳴らしてみませんか。

Music Space サヴァサヴァ
  野口 尚宏

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