音楽は「引き算」。音を詰め込むのをやめて、本当に必要な一音を見極めよう。

温かみのある水彩画風のイラスト。穏やかな音楽室でピアノに向かう人物が、ごちゃごちゃとした過剰な音符を手放している。代わりに、心を込めて弾いた「たった一つの音符」が、美しい黄金色の光となって澄んだ空間に響き渡っており、音楽における「引き算の美学」を表現している。画像下部には「音楽は「引き算」。」というテキストが書かれている。

ピアノのレッスンでも、ボーカルのレッスンでも、
少し技術が身についてくると誰もが陥りやすい罠があります。
それは、「とにかく音をたくさん足してしまう」ということです。

休符(お休み)の時間がくると、
間が持たなくて手癖でフレーズを入れてしまう。
複雑なテンションコードをこれでもかと重ねてしまう。
歌の隙間に、過剰なフェイク(飾り)を入れてしまう。
これは多くの場合、「空白(音が鳴っていない時間)への恐怖」や「
自分の技術を証明したいという無意識の焦り」から生まれます。

しかし、絵の具をたくさん混ぜすぎると色が濁って黒くなってしまうように、
音楽もまた、音を足せば足すほど美しくなるわけではありません。
むしろ、何を伝えるべきかがぼやけ、
聴く人を疲れさせてしまうことの方が多いのです。

一流のミュージシャンの演奏や歌を聴いて、
「なんだかとてもシンプルなのに、ものすごく心に響く」と感じたことはありませんか?
それは彼らが、テクニックを見せびらかすための「足し算」を卒業し、
音楽を「引き算」で捉えているからです。

アンサンブル(合奏)は、よく会話に例えられます。
もし、全員が自分の言いたいことだけを同時に大声で喋り続けたらどうなるでしょうか?
誰の言葉も耳に届かず、ただの騒音になってしまいますよね。
音楽も同じです。
ベースが素晴らしいラインを弾いているなら、
ピアノはあえて弾かずに見守る。
ボーカルの言葉を際立たせたいなら、伴奏はスッと音量を引く。

「今、この瞬間の音楽に、本当に必要な音は何なのか?」
状況を冷静に見渡し、不要な音を削ぎ落としていく。
その「引き算」の判断こそが、真の音楽の基礎力であり、
生きたアンサンブルのスキルを高めるカギなのです。

音を引くこと、すなわち「休符(間)」を作ることには、
実は音を出すこと以上の勇気がいります。
しかし、思い切って音を引いてみてください。
あなたが引いたその「余白」には、
必ず他のメンバーの美しい音が流れ込んできます。
そして、削ぎ落とされた後に残った「たった一音」は、以前よりもずっと力強く、
深い意味を持って空間に響き渡るはずです。

休符は、単なる「お休み」ではありません。
次の音に向かってエネルギーを蓄える、
音楽にとって最も重要な表現の一部です。
引き算を覚えたとき、あなたは「技術に追われる演奏」から解放され、
本当に伝えたい感情だけを音に乗せる「自由な表現者」へと進化します。

岸和田のMusic Space サヴァサヴァでは、
「上手に弾きなさい」「もっと足しなさい」
という指導はいたしません。
むしろ、「ここは弾かなくていいですよ」「もっと引き算してみましょう」
とお伝えすることの方が多いかもしれません。

音を詰め込むのをやめて、
アンサンブル全体の風通しを良くする喜び。
不要なものを手放し、本当に必要な一音だけを丁寧に響かせる心地よさ。

肩の力を抜いて、
私たちと一緒に「引き算の美学」をスタジオで味わってみませんか?
あなたの中に眠る、研ぎ澄まされた美しい音色に出会えるはずです。

野口 尚宏