「技術」より「人間」が響く時代。その音色には、人生が鳴っている

楽器を奏でるミュージシャンの周囲に、過去の楽しい思い出や悲しい経験の情景が、音色と共にフィルムのように浮かび上がっている様子:人生が音になる

かつては「誰よりも速く弾ける」「誰よりも高い声が出る」
といった技術的なスペックが重視された時代がありました。
しかし、DTM(デスクトップミュージック)やAIが発達し、
正確無比な演奏が誰でも作れるようになった今、
求められる価値は大きく変わりました。

現代の聴き手が求めているのは、
完璧な技術ではありません。
その音が鳴らされるまでの
「背景(ストーリー)」と、奏でる人の「体温」です。

基礎は大切。でも、それだけでは……

もちろん、最低限の技術は必要です。
それは料理で言えば「お皿」のようなもの。
しかし、どんなに立派なお皿(技術)を用意しても、
そこに盛られる料理(人間としての魅力)が空っぽでは、
誰も満足させることはできません。

逆に、多少お皿が歪んでいても、
そこに盛られた料理が、
その人の人生で煮込まれた味わい深いものであれば、人は心を動かされます。
「見せ方」や「聴かせ方」の工夫とは、
この「中身の濃さ」をどう伝えるかという演出なのです。

人生を過ごした時間が、音の深みを作る

「悲しい別れを経験した人のバラード」
「挫折を乗り越えた人の力強いロック」。

あなたが過ごしてきた人生の時間は、決して無駄にはなりません。
技術練習をしていない時間、つまり、友人と笑い合ったり、
仕事で悩んだり、旅に出たりしている時間こそが、
実は音楽の「深み」を作っています。

現代の音楽シーンでは、ステージ上のパフォーマンスだけでなく、
その人の生き方そのものが作品として受け取られます。
「どう弾くか」は、「どう生きるか」と同義なのです。

野口 尚宏