ジャズで成長する近道は“良い聴き手”になること
ジャズの世界で
「いい演奏家は、まず良いリスナーである」
という言葉があります。
これは単なる比喩ではなく、
即興演奏の本質そのものを語っています。
ジャズは一人では完結しません。
ピアノ、ベース、ドラム、管楽器、そしてボーカル。
それぞれが会話をし、音を交換し合いながら音楽が育ちます。
その中心にあるのが、
“聴く力” です。
なぜ「聴く力」がミュージシャンの成長を決めるのか
① 相手の音を理解することがアンサンブルを整える
自分の音を良くする前に、
まず相手の音を理解すること。
・どんなニュアンスで吹いているのか
・どのくらいのテンションで弾いているのか
・リズムの置き方、間の取り方
これらを感じ取ることで、
自然と自分の音も整っていきます。
② 即興は“会話”なので、聴かずに成立しない
ジャズのアドリブは、
「音を並べること」ではなく
音で会話すること。
会話は相手の言葉を聞かないと成立しないように、
ジャズも相手の音を聴くことで、はじめて意味が生まれます。
③ 聴く力は“音を選ぶセンス”を磨く
良い演奏家ほど、音の選び方が自然です。
これは才能ではなく、
「聴いてきた量と質」がセンスを作っている から。
多くの名演奏に触れることで、
「ここでこの音は気持ちいい」
「この間は美しい」
という感覚が育ちます。
それが即興演奏の“芯”になります。
ジャズ初心者ほど“グッドリスナー”になると成長が早い
最近、生徒さんを見ていて特に感じるのは、
演奏経験の浅い方ほど、聴く力の伸びが速い ということ。
難しいテクニックがないからこそ、
・相手の音
・空気の揺れ
・リズムの裏側
・音の強弱
を素直に受け取る力があるのです。
演奏よりも“聴く時間”が上達を加速させる
逆説のようですが——
良く聴く人ほど、演奏が伸びる。
これは25年以上指導を続けてきて、
一度も揺らがない真実です。
“聴く”という行為は、音楽の本質そのもの
ふとした瞬間、音楽には
“静けさ” が必要なことに気づきます。
例えば深く息を吸った時、
視界が開けるような感覚がありますよね。
音楽にも同じことが起こります。
自分を抑えて、
相手の音を静かに聴くことで、
音の流れが見えるようになる。
その静けさの中に、新しい即興が生まれます。
これはジャズの醍醐味であり、
音楽が人生と似ている部分でもあります。
結論:ジャズの成長の核心は“聴く姿勢”にある
ジャズミュージシャンとして成長するために必要なのは、
テクニックより先に、
「相手の音を大切に聴く姿勢」
です。
・相手を尊重すること
・音を受け取ること
・自分の音を出しすぎないこと
・必要な時にだけ差し出すこと
これらは演奏だけでなく、
人間関係にもそのまま繋がります。
音楽は人そのもの。
“聴く姿勢”の深まりが、
あなたの演奏と人生を静かに豊かにしていきます。
まずは「よく聴くこと」から始めませんか?
もし今、
「どうすれば即興が上達するのか」
「アンサンブルでうまく噛み合わない」
と思っているなら、
最初に見直すのは“自分の音”ではなく
“相手の音” かもしれません。
ゆっくり耳を開けば大丈夫です。
音楽は、聴くところから始まります。
野口 尚宏

