音楽のコラムに突如として佛教の話題が登場し、驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。
実は私自身、実家がお寺で僧侶資格を持っています。
現在は僧侶としての仕事はしていませんが、幼少期から仏教の教えに触れ、
その思想に自然と接してきました。
この経験が、音楽、特にジャズを聴く際の独特な視点を与えてくれています。
仏教思想とジャズ。
一見すると異なる二つの世界ですが、その本質には興味深い共通点があります。
両者とも、「今ここ」に生きることや執着からの解放、全体との調和を重視しています。
決して他の宗教を否定したり、佛教思想だけが良いものであるという気持ちがないことを
ご理解頂けると幸いです。
「今ここ」への集中
仏教では「諸行無常」の教えを通じて、すべてのものが常に変化していることを説きます。
この認識は、過去や未来への執着から解放され、現在の瞬間に集中することを促します。
ジャズもまた、即興演奏を通じて「今この瞬間」に全身全霊を捧げることを要求します。
ジャズミュージシャンは、その瞬間に生まれる音楽に完全に没頭し、新たな創造性を発揮します。
執着からの解放
仏教は執着が苦しみの原因であると説き、その解放を目指します。
「諸法無我」の教えは、固定された実体や本質がないことを示し、執着の無意味さを伝えています。
この考え方は、多くの人々にとって心の軽やかさや自由さにつながります。
ジャズの即興演奏も、既存の枠組みや固定観念から自由になることを求めます。
演奏者は楽譜や過去の演奏に囚われず、その瞬間に生まれる音楽に身を委ねます。
この姿勢は、仏教的な考え方と共鳴しています。
調和と相互関係
仏教の「縁起」の概念は、すべての現象が相互に関連し合っていることを説きます。
この考え方は、人々や自然とのつながりを強調し、多様性を尊重する姿勢につながります。
ジャズでも、個々のミュージシャンが互いに耳を傾け、応答し合いながら全体としての調和を生み出します。
このような協力関係は、音楽だけでなく日常生活にも応用できる重要な価値観です。
変化の受容
「諸行無常」はすべてが変化していることを示し、
この変化を恐れるのではなく受け入れることが大切だと教えています。
これは人生における柔軟性や適応力にもつながります。
ジャズも同様に常に変化し続ける音楽です。
一度演奏された即興は二度と同じようには再現されません。
この不確実性と変化を受け入れる姿勢は、新しい創造性や発見につながります。
即興と無常の調べ
仏教思想とジャズは、その根本において「今を生きる」という共通した哲学があります。
短い期間での僧侶としての経験がこの視点で見ることで新たな理解へと導いてくれたのかもしれません。
この視点から見ると、ジャズの即興演奏は仏教的な考え方を音楽で表現したものとも言えるでしょう。
仏教とジャズ、この一見異なる二つの世界が深いところでつながっているという事実が
新たな気づきと洞察を私たちにもたらしてくれることを願います。
野口 尚宏