教室のボーカルレッスンで取り上げる曲は基本的にはピアノで伴奏が可能な曲であれば、
生徒さんがやりたい曲を出来うる限り取り上げている。
しかし、望まれる曲を取り上げると同時にジャズスタンダード曲も歌って頂く事をお勧めしている。
ジャズスタンダード曲とは、なかなか定義づけが難しいが、
20世紀初頭1920年代頃から1960年頃までにミュージカルや映画で作られたものが多く、
曲のメロディもしっかりしていて、尚且つ親しみやすく、いろんなアレンジが可能なように出来ている。
あとヴァースと呼ばれる曲の導入部分を歌う事もあるが、
気軽に音を合わせるセッションではコーラスと呼ばれる曲のメイン部分のみで演奏される事が多い。
1曲32小節から長くてもその倍の64小節から70小節くらいで収まっているものが多く、
中には16小節くらいのものや、ブルースなど12小節をなんどか繰り返すタイプのものもある。
その1曲分を1コーラスとし、イントロからその小節数を何度か楽器のアドリブプレイなどを経て、
何度か繰り返し、エンデイングに向かうという構成なので曲の全体像が掴みやすい。
ポップスでは3分少しの曲でも100小節を越える事はざらだし、クラシックではもっと長い。
既成の曲を単にまねるだけに留まらず、
そこに自身のパーソナリティを反映させる事が出来るし、
このシンプルかつ柔軟性に富んだ素材を使用する事で、
打ち合わせの時間を出来るだけ短縮し、アンサンブルする事が可能になる。
そのためにいくつかの約束事は知っておく必要はあるが、
クラシック音楽における緻密なリハーサルや他のロック音楽のバンドなどにみられる
スタジオに何度も入らないとライブが出来ないという事はない。
(ただし、ジャズでもビックバンドジャズやアレンジが凝っているものは例外だけれど。)
またスタンダード曲は長年沢山のシンガーに歌われてきても飽きないメロディとシンプルで有りながら
よく練られている楽曲構成は即興的に音楽を合わせる種類の音楽、
特にジャズでは使用される事が多いのだと思う。
そのため、様々なアレンジでテレビCMやどこかで聴いた事があるメロディだという事が多い。
しかし、ジャズをする人はボーカルやメロディを担当するリードパート以外の
他の演奏パートも対等であるという共通の認識があるため、
こと歌唱に重きをおく、ポップスなどのジャンルが好きな方にとっては
少し違和感を感じる事もあるかもしれない。
ただ、この歌唱力に合わせて即興的アンサンブル能力でも言うべき、
音楽的な力を養う事で歌う楽しさに音を合わせる楽しさも味わえるし
自分の意思で自分の周りで何が起こっているか見極めつつ
リードしながら歌わないといけない環境が音楽的コミュニーケーション能力を高め、
どんな音楽も俯瞰してみる事が出来る力をつけてくれると思う。
シンプルな素材に色づけしていく楽しみは音楽の楽しみを深め、
音を通じて人と人とのコミュニーケーションの楽しみを深めてくれるように思う。